第十六章

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「……那緒、こっち向けって」 藤真が私の肘を掴んで振り向かせる。 口の端と端にキュッと力を入れて、涙を必死に堪えた。 恥ずかしくて、息が苦しくて…… 自分がどんな表情をしているのか不安になった。 「ふっ……お前、さっきもその顔してた」 「っ……!?」 「入り口の所で。泣いてんのかなって思って……、それで……わかったの。ああ、なんだ。コイツ俺の事めちゃくちゃ好きなんじゃんって。俺が笑ってたの気付いて無かった?」 力が抜けたように首を傾けた藤真をチラッと見上げて、顔を横に振る。 あの時はそんな余裕なんて……。 「こっちもこっちで、なんて言おうか……誤解されてないかとか必死だったから。こうしてる今だって……逃げ出さないか心配だし。自分でもムカつくけど……」 ポロっと目尻から溢れた涙よりも早く、藤真の指先が私の頬に触れ 「俺の頭ん中は……那緒しかいない。だから、さっさと気付いて。それで認めて。いつまでもこんな面倒な事……、もう……」 「っ…………」 目を伏せるようにして近付いた私達の距離。唇に優しくキスが落とされた。
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