257人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
「……那緒、こっち向けって」
藤真が私の肘を掴んで振り向かせる。
口の端と端にキュッと力を入れて、涙を必死に堪えた。
恥ずかしくて、息が苦しくて……
自分がどんな表情をしているのか不安になった。
「ふっ……お前、さっきもその顔してた」
「っ……!?」
「入り口の所で。泣いてんのかなって思って……、それで……わかったの。ああ、なんだ。コイツ俺の事めちゃくちゃ好きなんじゃんって。俺が笑ってたの気付いて無かった?」
力が抜けたように首を傾けた藤真をチラッと見上げて、顔を横に振る。
あの時はそんな余裕なんて……。
「こっちもこっちで、なんて言おうか……誤解されてないかとか必死だったから。こうしてる今だって……逃げ出さないか心配だし。自分でもムカつくけど……」
ポロっと目尻から溢れた涙よりも早く、藤真の指先が私の頬に触れ
「俺の頭ん中は……那緒しかいない。だから、さっさと気付いて。それで認めて。いつまでもこんな面倒な事……、もう……」
「っ…………」
目を伏せるようにして近付いた私達の距離。唇に優しくキスが落とされた。
最初のコメントを投稿しよう!