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何も返す言葉が見付からずうつ向く私に、ふっと彼の影が重なる。
「そんなに……、悲しい顔をされては困るな」
「え……?」
見上げた私の耳元を、内緒話でもするようなヒソヒソとした声がくすぐった……
その時だった。
「矢野っ…………てめぇ……!!!人の女堂々と口説いてんじゃねぇぞ!?」
「っ……!?」
平穏な街に突如として目の前に現れたのは、火を吹く怪獣……ならぬ、肩で息をする藤真。
よっぽど急ぎ着替えをしたのか濃紺のスーツ、そのネクタイは少し歪んでいる。
「つうか……、てめぇもヘラヘラすんな!!」
と、もう一つ怒鳴り声を上げた藤真が私の腕を痛い位に掴みそこから立ち上がらせ、
よろめく私を背中に隠すようにして、矢野くんの前に立ちはだかった。
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