第二十四章

3/13
前へ
/35ページ
次へ
『藤真くん。今日は練習お休み?』 『……サボった』 『アラアラ。お母さんにバレたらまた怒られるんじゃないの~?フフッ。あ……そうだ。おミカン食べる?』 那緒の母親はフワフワとしたリズムでそう言ってミカンを一つ寄越したが、さっきの言葉を無視された事に腹を立てた俺はそれを受け取らなかった。 が、彼女の細い腕が小刻みに震えているのに気付きハッとして顔を上げた。 怒らせてしまったのかもしれない。 そう、思った。 でも、それが勘違いだってわかったのは、彼女が自らの手を押さえる仕草をして 『……ごめんね?』 と、恥ずかしそうに笑ったから。 『…………』 那緒は検査入院だと言っていたけど……、俺はそうじゃない事を知っていた。 夜中、父さんと母さんがリビングで話していた会話内容を偶然耳にした事があった。 『やっぱり、頂戴』 子供ながらの気遣いだった。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

452人が本棚に入れています
本棚に追加