四章:Lトランス

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  そこが菖蒲の足りなさなのだと恵流は笑顔の裏でも表でも愚弄する。 「簡単なシミュレーションをしてみようか。君とイリスの馴れ合いの輪に僕が入ったとして、それで和やかな談笑が成立するかな」 「……あ、はい」 お察しだった。恵流はその性格上、あえて空気を読まない。天邪鬼ではないが、自分の感覚を行動に反映させる事に並々ならぬ執着がある。 「でもそれは、のえるが多少――いや、多大に自重すれば済む話だよね」 「だから嫌なんだ。"合わせられる"のも面倒くさいし、何より僕が原因で菖蒲が"共有の力"を解放させられなかったら台無しだ」 「取り付く島もない。もう、解ったよ。気が変わったらいつでも言ってね? はぁ、イリスさんになんて伝えよう……」 恵流の確固たる意志を受けて、菖蒲は説得を断念して階段を上がっていく。二人の会話を聞きに徹していた七色が恵流の背中に感想を投げる。 「随分と頑なでしたね。菖蒲が共有の力を得る事に拘りでもあるのですか?」 「菖蒲にその資質がある事は前回の周回で証明されてるからね。自信があるなら君も混ざってもいいよ? 菖蒲である必要はないんだ」 ――七色でも、恵流自身でも。 「それではまるで、菖蒲の戦闘能力を当てにしているのではなく、王女の共有の力さえ解放できれば良いと言っている風に聞こえますが?」 沈黙の隙間に何処からともなく獣の雄叫びを思わせる不気味な風の音が入り込む。恵流は答えない。それから数拍して。 「イリスの特別な能力ってさ」 その代わりとばかりに、お茶を濁すように別の話題を口にする。 「僕達の魔法に似てると思わない?」 源王学園に通う者なら誰もが持ち、行使できる非日常≪マホウ≫――影響/効果≪エフェクト≫。 「最初から発動している『邪を祓う力』がCランクエフェクトとすれば……誰かと親交を深める事で解放される『共有の力』はBランクエフェクトという所ですか」 否定材料がないという意味では有力な仮説ではある。だが。 「それがどうしたと言うのです?」 「それがAランク以下の影響/効果≪エフェクト≫なら、バナナさんなら再現できるかも知れないね」 「残念ながら例え影響/効果≪エフェクト≫であっても、それは難しいです。あたしの影響/効果≪エフェクト≫は――」 「――正確な名称が解らなければ実行登録ができない、だよね」 イリスの能力は自動的あるいは受動的に実行されている。
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