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イリス自身でさえ知らないのだから、部外者の七色に知る術はない。そこが七色のAランク影響/効果≪エフェクト≫の不便な点の一つだった。
「解っているのなら言わないで下さい」
「あくまで一例として出しただけだよ。仮に影響/効果≪エフェクト≫ならこんな事が出来るかもねって言うさ」
飄々とした態度を崩さずに言って、恵流は階段に腰を降ろした。
「招待を断っておいて、のうのうと姿を現せば顰蹙を買ってしまう……傍若無人の貴方にも、その程度の配慮は出来るんですね」
「目的の為だからね。バナナさんが予備戦力として機能してくれるなら有難いんだけど、イリスとお友達になるつもりはない?」
皮肉をのらりくらりと躱して、恵流が提案の体を装った絶妙な嫌味を突き返す。
「あたしとしては貴方が途方に暮れる結果にするのも吝かではありませんが」
七色は鉄面皮を守ったまま、壁に背中を預けた。燭台の炎が七色の横顔を照らし、淡い橙を帯びる。
「今回は協力者の立場を優先して貴方の利益を最大限に考えてあげる事にします。感謝して下さい」
「物は言いようだね。お礼に何も言わないであげる」
「貴方にだけは言われたくありません、平野恵流」
お互いに会話もなく、身動ぎの音が不定期にやり取りされる。傍目から見れば何処までも暇を持て余しただけの無為な時間も、恵流にとっては退屈などではない。
考える事は――考えられる事は山ほどあるのだから、思考を止めてはいけない。
◇ ◇ ◇
竜王から王国の平和に捧げられた犠牲について教えられたイリスが真実を求める一歩を踏み出す。
「竜の王よ。貴方の語った話が全て真実であるというなら、ただ一度、僅かな時間で構いません。お父様と話をさせて下さい」
「ああ、承った。古き縁の義理を果たそう」
この先の直近の未来で無知であった代償を支払う運命にあるとも知らぬまま。
イリスは遅かった。そうなるように、この世界は動いていた。それは罰ではなく、やはり必然なのだ。
だからこそ、『プレイヤー』にはその出来事を覆す権利が生じる。選択肢にさえ気付ければ――変えようという意志があるならば。
それは現実世界においても同じなのかも知れない。
では。その意志は、どのような意思の元に行われるべきなのだろう。
イリスが可哀想だから、助けるのか。
恵流は思う。それは何と受動的なのか、と。そんなものは意思ではない。ただの反射だ。
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