四章:Lトランス

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  真実のエンディングとは何か。一周目の段階から、恵流は飽きるほどに考え続けてきた。方法には未だ確信はないが、必要な"考え方"ならば一定の自信がある。 菖蒲が王の命を救い、竜王に『前回と同じ提案』を飲み込ませた。確定した未来を手繰り、やがて封印の間に続く扉の前に到着する。 解答の提出期限はすぐそこまで迫っていた。 「お礼が遅くなって申し訳ありません。菖蒲さん、父の命を救って下さり本当にありがとうございます」 菖蒲がイリスを振り返り、胸の奥底で燻っていた後悔に点火する。 「本当はもう、こんな機会は巡って来なかった筈なんだ。私は、失敗したから……偉そうな事を口に出来る立場じゃないんだけど、それでも言わせて欲しいの」 怨念の蛇≪ウロボロス≫との戦いに敗北したあの日、菖蒲は自らの浅慮を呪った。油断や慢心があったのではない。出来得る限りの事はしたつもりだった。 それでは届かないと、漠然と知りながら。力不足を開き直って色気を出すなんて、最初から勝負を捨てている事と何が違うのか。 「イリスさんが大切に思うもの――全部、守るから。今度こそ、絶対に! 」 「菖蒲さん……身勝手ですけれど、わたくしのお願いを聞いて下さい」 イリスはその手で菖蒲の両手を包んで、翡翠の双眸で菖蒲の真紅の眼差しを見つめながら告げる。 「その身に万が一の危険が及ぶようでしたら、わたくしに気兼ねなどせず離脱すると約束して下さい。わたくしにとって菖蒲さんもこの身に代え難い大切な者の一人なのです」 恵流が作ってくれた泣きのもう一回。ご丁寧にお膳立ても済んでいる。元より何があろうとも、蛇にくれてやる事はない。 「うん、約束するよ。ありがと、イリスさん……この戦いが終わったら、ちゃんと友達になろうね」 菖蒲の決意表明に"欺瞞"はない。だからイリスも安堵の笑みを零す。 そして次の瞬間、イリスの胸の辺りから眩いばかりの純白の奔流が飛び出した。 時間にして数秒。網膜を焼かんばかりの光が引いていき、やがて収束する。イリスとの間にたゆたう光球を、菖蒲は大切に大切に胸に掻き抱く。 ――共有の力は為った。 さぁ、決戦の時だ。力強く最後の敵が待ち構えている扉の先を睨もうとした菖蒲の視界に緩やかな歩みで国王に近付く男の姿が映る。 その男は自分の動向に気が付いた菖蒲にニッコリといつもの無邪気な笑みを送ると、予想もしていなかった行動を取った。
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