第1楽章~月蝕(げっしょく)

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2 しんいちは、壬生川に帰った後は就職支援センターの職員さんからの紹介で、新居浜市にあります労災病院へ再就職をしまして、水回りの清掃の仕事をすることにしたのでありました。 祝日を除く月~土曜日に勤務で、月給はバスの定期代とお昼のお弁当代などを差し引いて、手取り9万円でありました。 しんいちは、毎朝8時過ぎに横町のバス停から横黒経由のマイントピア別子行きのバスに乗りまして労災病院へ通勤をしまして、朝10時から夕方5時まで水回り清掃のお仕事をしまして、仕事が終われば横黒経由の周桑営業所行きのバスに乗りまして、小松総合支所のバス停から今治営業所行きのバスに乗り継いで横町のバス停に戻りまして家に帰宅をすると言う形で通勤をしていたのでありました。 お昼は、お給料引きで注文したお弁当を食べて栄養を摂ること…お仕事が終わったら、家にまっすぐに帰って家族そろって晩ごはんを食べること…1台のテレビでおとーさんが楽しみにしているテレビ番組を家族そろって見ること…休日は、おとーさんが行きたい場所に家族そろって出かけること…おとーさんの知人のお子さんのピアノの発表会やお遊戯発表会を家族そろって見に行くこと…家の親族のお祝い事には家族そろって出席をして素直に喜ぶこと… しんいちは、就職支援センターの職員さんからクドクドクドクドと家族で仲良く暮らして行くことができるようにあれこれと言われたことがわだかまっていましたので『パターン化された暮らしはつまらない!!』と思いましていじけていたのでありました。 けいいちとさよ子としんいちの両親は、しんいちをひとりぼっちにさせないと言う気持ちになりまして、いろいろと知恵をしぼってしんいちを助けていたのでありました。 父親は、これからは家族のために生きて行くと決めまして、スーパーマーケットに再就職をしましてお給料をかせぐことにしたのでありました。 母親も、お弁当工場でパートとして働くことになりました。 けいいちは、時間通りに帰ることができる部署に転向をしまして、しんいちのために生きて行くと決めたのでありました。 最初の3ヶ月は、家族みんなが穏やかに暮らしていたのでありましたが、8月に入ったあたりから小さなほころびがところどころで目立ち始めていたのでありました。 おそらくこのあたりからだと思いますが、しんいちのガマンは限度を大きく超えてしまったのでありました。
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