スイートな君

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レナは仕事熱心だ。 他の受付嬢のように、ばっちりメイクで愛想を振りまいていればいいとは考えていない。 来客の顔と名前と飲み物の好みを完璧に覚えている。 接客する社員に関しても同じ。 それどころか、うちの商品についても日々勉強を怠らない。 顔が綺麗過ぎて受付に配属させられたが、元々は営業志望だったから、そういうことに興味があるのかもしれない。 だからといって不満を口にすることもなく、何事も経験だと前向きに仕事に打ち込んでいる。 そういう姿勢に俺は惚れたんだ。 レナは尊敬できる。 だから、俺もレナに尊敬してもらえる男になりたくて、仕事に励んでいる。 ホワイトデー当日。 俺はバレンタインデーにチョコをくれた女性社員のリストを片手に、各部署を回ってお返しを渡していた。 こういう律儀なことをしてしまうから、毎年社内の誰よりも多くのチョコをもらってしまうんだろう。 最後に行った総務課の廊下でレナに呼び止められた。 「ねえ、藤田課長と話してたのって、転勤のことだったの? だから、私に言えなかったんだよね?」 今朝、辞令が出て、藤田課長は4月1日付けで札幌支社に異動になった。 たぶん、プロポーズは今夜だろう。 「今夜、おまえんちに行っていい?」 「え? いいけど。何時ごろ?」 「日付が変わるころ。いい?」 「いいよ、明日休みだから」 藤田課長とはまだ今夜の約束をしていないのか? 深夜にはもう帰宅していると思ったのか。 そのまま、泊まることになるんじゃないのか? 転勤のことを聞いて、おまえはどうするつもりなんだ? 疑問はたくさんあるが、とにかく俺の気持ちをぶつけようと思った。 何も言わずに友だちのままでいるより、言うだけ言って玉砕することに決めた。 どうせ結婚式に呼ばれたって辛いだけだ。 仲の良い男友だちなんて関係に今夜、終止符を打つ。
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