スイートな君

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「お邪魔しまーす。って、おまえ酔ってるの?」 いくら仲が良いからって、深夜に彼氏以外の男を家にあげるなんて危機感ゼロだ。 しかも、頬も胸元もほんのりピンクに染まってほろ酔い状態。 ドキッとしながらも藤田課長に同情した。 「んー。課長が転勤しちゃうから、三人でちょっと飲んだだけ」 「三人って?」 二人でじゃなく? 「課長と満里奈と私」 秘書課の谷沢がなんで? と思ったが、それもカモフラージュか何かなのかもしれない。 「ビールとつまみ買って来たけど、もう飲まないか」 元々酔わせて口説こうと思ったんじゃない。 酒の力を借りないと告白できそうになかったから。 「いや、もうちょっとなら飲める。今夜はお祝いだからね」 そう言って俺からコンビニの袋をひったくると、テーブルに並べ出した。 「お祝い? 藤田課長は別に栄転ってわけじゃないだろ?」 素っ惚けて聞きながら、お祝いってことはプロポーズにOKしたんだと悟った。 それなのに、今更ずっと好きだったって告白する意味があるのか? 俺が告白したら、藤田課長のプロポーズを蹴って俺と付き合ってくれるなんて思うほど自惚れていない。 あー、やっぱりプロポーズの前に告白すべきだったか。 でも、俺に相談してきた藤田課長を裏切るような卑怯な真似はどうしても出来なかった。 今、気づいたが、もしかして藤田課長は俺の気持ちを知っていて、俺に横取りされないようにしたのかもしれない。 なるほど、それなら口をきいたこともない俺に相談したのも納得だ。 人事課の俺が転勤の情報を得るのは必至。 だから、俺の動きを封じるために先手を打ったというわけか。 爽やかなスポーツマン風のくせして、やってくれたな。 まんまと策に嵌った俺は後手に回るしかなくなった。 「乾杯」 缶ビール同士をカツンと当てて、ビールをグビグビと流し込む。 そんな俺を見て、レナは戸惑ったように口を開いた。 「ね、でも、いいの? ホワイトデーなのに、彼女と過ごさなくて」 「ああ。もう別れたから」 一応、身辺整理はしてあると宣言。 「なあんだ、そういうこと? 彼女を切らしたから、ホワイトデーの夜が寂しくてうちに来たわけ?」 「”彼女を切らした”って、タバコを切らしたみたいな言い方するなよ」
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