スイートな君

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「まあまあ、寂しい独り身同士、飲み明かそうじゃないか」 レナにバシッと背中を叩かれて、ゲホッとむせた。 「は? おまえ、藤田課長は?」 まさか、札幌にはついて行けないと言って別れたとか? 「課長? 課長は満里奈にプロポーズしたよ。だから、今夜はお祝い」 「なんで谷沢に? なんでおまえじゃないんだよ!」 ありえない。二股かけてたってことか? でもって、二人を前にして片方にプロポーズしたと? あの野郎! とんだ鬼畜だ。 思わず立ち上がった俺にレナが目を丸くした。 「なんで私?」 怒り心頭の俺とビックリ顔のレナが見つめ合うこと数秒。 なんか話が噛み合ってないような……。 「先月、藤田課長が俺に言ったんだ。転勤の辞令が出たらレナにプロポーズして連れて行くって」 椅子に座りなおして、レナを見つめる。 「はあ? 何それ。課長は三年も満里奈と付き合ってるんだよ? それ、藤堂くんの聞き間違いじゃないの?」 「相手が谷沢だったら、俺に言うことないだろ? おまえが俺と仲が良いからって話しかけて来たんだ。それに、谷沢と付き合ってたって何だよ? 三年も付き合ってたのはおまえだろ?」 「付き合ってない」 バンとテーブルに両手をついて、今度はレナが立ち上がった。 「今まで私の何を見てたの? そこまで私に興味がないとはね」 ハッと自嘲するような笑いを零したレナに俺も立って睨み返した。 「何言ってるんだよ。興味ありありだよ。おまえしか見てねえよ」 「……えっと。それって、私の体目当てってこと?」 真っ赤になったレナに俺はバーカと呟いた。 「体だけで満足できるか。今すぐ藤田課長に電話しろ」 「藤堂くんが羽鳥さんを狙ってるって気づいた時、藤堂くんは彼女持ちだったからさ。可愛い部下が弄ばれないように、人事課の同期に頼んで俺と羽鳥さんが交際を始めたって藤堂くんに吹き込んでもらったんだ。でも、最近になって満里奈から藤堂くんはレナにずっと本気なんだって聞いて。まあ、煽ったと言うか、けしかけたと言うか。騙して悪かったね」 レナの携帯のスピーカーから聞こえたあっさりした声に、俺はガックリ脱力した。 『悪かったね』だと? 三年も俺を害虫扱いして騙しやがって。
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