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「ね、さっき、藤田課長と何話してたの?」
社食の入り口でレナに追いついて、いつものように肩を抱いて彼女の髪の匂いを嗅いだ。
どうやら、俺と藤田課長が話しているのを見ていたらしい。
「んー? まあ、色々」
一日一回あるかないかの貴重なスキンシップを味わう俺はおざなりな返事を返した。
「色々って?」
レナが俺に向かい合うように体の向きを変えたから、肩から手が離れてしまった。
「色々は色々。地球温暖化の事や女の好みとか」
「ウソ」
睨みつけるレナの腰を抱き寄せてサワサワと撫で回す。
「羽鳥のケツが最高ってことで意気投合した」
「あー。藤堂くんに聞いた私がバカだった」
不埒な動きをする俺の右手をピシャッと叩くと、レナはスタスタと食券販売機の前に並んだ。
「こんなところじゃ言えない話だからさ、今夜俺んちに来ない?」
「行かない。彼女に誤解されて殺されたくない」
「あんたたちって、いっつもそんなこと言い合ってるよね」
クスクス笑うのは秘書課の同期の谷沢 満里奈。レナの親友だ。
「藤堂くんが社外に彼女がいるっていうのが不思議。こんなにレナとお似合いなのに」
こいつはいつもグイグイと人の傷を抉る。
「藤堂くんは”社内恋愛は無理”な人だからね」
俺だってムチャクチャ後悔している。
入社当時、群がるお姉さま方に恐れをなして、『後々面倒なので社内恋愛は無理です』と宣言したことを。
気がつけば、レナにどっぷり惚れていて。
なのに、今更社内恋愛なんてできなくて。
片思い中だから、他の女はいらないと言えるほど我慢強くもなくて。
コロコロ変わる社外の彼女たちとよろしくヤりながら、虎視眈々とレナを狙っていたのに藤田課長に掻っ攫われた。
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