ビターな俺と

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「社内恋愛が何かと大変なのは事実だよね」 うんうんと頷く谷沢はずっとフリーのはずだから、レナの愚痴をいつも聞いてやっているのだろう。 「遠距離恋愛の方が大変だろう?」 藤田課長のためじゃないが探りを入れてやろう。 「遠恋は私には無理だな。心配でおかしくなっちゃう」 谷沢がそう言うと、レナはクスッと笑った。 「そうだよね。浮気してるんじゃないかって心配して、心が休まらないよね」 藤田課長は背も高いし逞しい体をしているから、顔はそこそこでも案外女にモテるのかもしれない。 「相手が浮気するってばかりじゃないよな。自分だって寂しさのあまり誘われてついフラフラとってこともあるかもだし」 俺がそう言うと、二人してプッと噴き出した。 「藤堂くんは寂しくなくてもフラフラしそうだけど」 私たちはそんなことないよねと声を合わせる。 所詮、俺のイメージなんてそんなものか。 「じゃあさ、恋人が転勤で遠くに行くことになったらどうする? 仕事辞めてついてく?」 カツ丼を乗せたトレーをテーブルに置きながらさりげなく聞いた。 「もちろんついてくよ。仕事に未練なんてないもん!」 谷沢がキッパリ宣言するものだから、おいおいそんなこと社食で言って大丈夫かと心配になる。 「羽鳥、おまえは?」 「うーん。私は戻ってくるのを待つかな。後先考えずについて行って、向こうで仕事が見つからなかったら彼に依存することになるでしょ? そういうのは無理」 こいつらしいと言うか何と言うか。 「レナは重い女になりたくないんだよね。その気持ちもわからないではないけど、好きなら彼の胸に飛び込んで行ってもいいと思う。それに、一緒に来てくれって誘われたのに『無理』って言って断ったら、遠恋になっても続かないと思う。拒まれたっていうショックで、彼、浮気しちゃいそうだから」 昼飯はヨーグルトサラダだけと決めている谷沢はさっさと食べ終わっていて、しゃべるしゃべる。 温玉乗せとろろうどんを食べていたレナは、谷沢の言葉に顔を上げた。 レンズの曇ったメガネを外してテーブルに置く。 その動作からは彼女の動揺は読み取れない。 というか、自宅以外でメガネを外すな。
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