スイートな君

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人事課と総務課の接点なんてほとんどないのに、どうしてこういう場面に出くわしてしまうのか。 応接室を出た廊下の角でレナと藤田課長の姿を見かけてしまった。 藤田課長はそのままエレベーターに乗り、くるっと振り返ったレナとバッチリ目が合った。 そこで見なかった振りをするほど、俺たちはよそよそしい関係じゃない。 「なんだ、痴話ゲンカか?」 からかうように聞くと意外な答えが返って来た。 「藤堂くんのせい」 「は? なんで?」 「先週、課長と何を話していたか教えてくれなかったから」 気になって課長を問い詰めたけど教えてもらえなかったってところか。 そりゃあ、まだ言えないよな。辞令が出たらプロポーズだろう。 あの後、俺はちゃんと藤田課長に報告した。 プロポーズなしの誘いは断られるけど、プロポーズすれば大丈夫みたいですよと。 俺はまた指を咥えて見ているのか? レナの幸せは誰よりも願っている。 でも、俺以外の男との幸せを許せるほど心が広くはないんだ。 「課長と藤堂くんは親しくない。なのに、何を話してたの?」 「藤田課長はなんて言ってた?」 「ワールドカップの予想と女の好みだって」 意外と話が合う奴かもしれない。 「だから、そう言っただろ? 羽鳥の巨乳が最高だって」 「ケツじゃなかった?」 「あー、つまり全部ってこと。おまえのヘソの形もそそられるって」 俺に関しては、これは事実。 もうレナのどこもかしこも良過ぎて困る。 「いつ見たって言うのよ」 「同期で伊豆の海に行った時」 あの時、一瞬見えたレナのビキニ姿は破壊的で、俺は慌てて来ていたTシャツを脱いでレナに着せたっけ。他の男に見せたくない一心で。 「いや、課長が。もういい。二人揃って怪しすぎる」 何か言いかけたレナは首を振ると、俺をひと睨みして足早に去って行った。
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