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『人の業というモノは、どこまでも貪欲で、どんな闇よりも深い。。。』
この鼻を刺すよう独特の匂い。
それがどんな匂いなのかと聞かれたならば、一言で答えることは、ほぼ不可能だろう
所々にカビが生え、ひんやりとした空気を放つ石造りの壁。天井も同じく
さらには場所によってはヒビが入っていて強い衝撃を与えようものならば今にも崩れてきてしまいそうだ。
どこを見渡しても窓など見当たるはずもなく、明かりはない。
唯一の光源である壁に打ち付けられる形で固定されている質素な松明が、パチパチと小さな音を立てていた。
雑に切られた棒切れに布を巻きつけ油か何かを染み込ませてあるのだろう
「こんな牢獄で。。。神頼みかい?あんちゃん」
そんな広い部屋の真ん中には通路があった。
1つは上へと続く階段。
階段の反対側。
部屋の奥。
これまた年季の入った両開きの大きな木製の扉があった。
今は閉じられているが、床には何度も開け閉めされているのを物語るように、扉の下側の木材によって削られた石の跡があった。
その通路を挟むように部屋の左右に在るのはまさにその名の通リ牢屋だ。
カビの生えた石造りの床にガッチリと固定された鉄格子が中にいる者の行く手を阻み、松明の光を受けて不気味な光を帯びていた。
壁や天井の石造りとは違い、比較的新しく見えた。
もちろん、これも錆びているが
「神頼みって事はありえねーか。グフフ。。。神様なんざ、遥か昔に亡くなっちまってるもんなぁ。なぁ、あんちゃん」
そんないくつかある牢屋の1つ。
階段のすぐ側、左側の部屋から男の声がする。
歳は40後半といった所だろうか。
だいぶM字の進んだ頭部は油まみれで、後頭部の辺りで粗末な紐で結ばれていた。
ボサボサに伸びたヒゲの上から目前を見つめるブラウンの瞳は痩せこけ、松明の光を受けずともギラギラと輝いている。
ガタイはいい。
だが、その男が身に着けているボロボロの布の服は肩や右腹辺りに穴が開いていて、その穴から見える範囲には治りかけの傷が見える。
七分丈のズボンもボロボロで所々黄ばんでいた。
「独り言さ。オジサン」
そんな男の、向かい側。
階段から降りてきてすぐ右の牢獄から、返事が返ってきた。
男の声とは対極的な若い声。
だが、その声にはどこか胡散臭さが漂っている
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