10人が本棚に入れています
本棚に追加
心臓がドクドクと脈打ち、耳が熱くなる。声を掛けてみようか。俺のこと、覚えてるかな。そんなことを考えていると、彼女が満面の笑顔でこちらに手を振ってきた。俺は驚いたが、どうやら彼女の視線の先は俺を通り越して後ろにあるようだ。俺が、振り向くと、年若い青年が彼女に満面の笑みで手を振り返している。なんだ、俺じゃないのか。覚えてるはずない。その男に彼女は腕を絡ませると、ホテル街へと歩いて行く。俺は、ショックを隠せなかった。夫かと思ったが、こんな昼間に、夫とホテルに行くだろうか?
俺は、ハロワに行くのを止めて彼女の後を追っていた。案の定というか、俺のわずかな期待を裏切って彼女はその男と、ホテルへと入って行った。嘘だろう。俺は少なからずショックを受けていた。
もうあんな不倫女のことは忘れるんだ。お前にはもっとするべきことがあるはず。そうは思ったが、俺は彼女を諦めきれず、とうとうインターネットで買ってしまった。ドローンだ。対面する彼女を撮影することも可能だ。俺は完全なストーカーで変態の覗き野郎だ。彼女を不倫をネタに脅して無理やり関係することも考えたが、俺にはそんな勇気はなかった。せいぜい覗きをするくらいしか、頭が回らない。
そして、俺は彼女を撮影することに成功した。彼女は窓辺で俺が盗撮しているとも知らずに、パソコンを開いていた。何を見ているのか気になり、大胆にもベランダにまでドローンを接近させた。どうやら、全く気付いていない様子でなにやらSNSに書き込みをしているようだ。俺は、そのアイコンを見て驚いた。
なんとそのアイコンは、俺の尊敬して止まないあのブロガーのものだったのだ。彼女は、何事か返信をしていた。俺は、ドローンを引き上げ、確認をするために、慌ててパソコンを開いてそのSNSにアクセスして、コンタクトを取ってみた。すると、俺の投稿に即答で答えが返ってきた。間違いない。彼女が、怖華子さんだ。
憧れのブロガーがあの一目惚れした美人妻。もう俺の気持ちの暴走は止められなかった。俺は毎日毎晩、彼女の家をドローンで覗いた。彼女のすべてが知りたい。
そこで俺はある不思議なことに気付いた。いつ覗き見ても、夫の姿は無いのだ。もしかして離婚したのか。それなら俺にもチャンスはあるのかも。俺は、話しかけることすらままならないのに、そんな妄想を抱いていたのだ。
最初のコメントを投稿しよう!