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そして、ある夜。俺は、性懲りもなくドローンを飛ばして彼女の部屋へと操作した。ベランダに差し掛かったところで、いきなりベランダの窓が開き、彼女がドローンを捉えた。しまった、気付かれていたのか。俺は慌てて自分の部屋のベランダの柵に身を隠した。柵のわずかな隙間から彼女を盗み見ると、彼女は片手にドローン、そして煙草を吸いながらこちらを注視していた。
ああ、俺はお終いだ。もう通報されて、逮捕。就職もままならないのだろう。ほどなくして、鳴らされるチャイム。
インターフォンのカメラを覗くと、やはり彼女がドローンを持って立っていた。俺は仕方なくドアを開け、彼女に平謝りした。
「君、私に興味があるの?」
彼女が悪戯っぽく笑った。俺はてっきり罵倒されて通報されると思っていたので、面食らった。
「私の家に、来る?」
俺は夢を見ているのか。今、俺は、彼女の部屋に彼女と二人っきり。彼女の甘い匂いが部屋中に漂っている。
「食べる?」
俺の目の前のテーブルに、ガラス容器に入った、ヨーグルトのようなものが出された。俺は、いただきますと、一口食べた。不味い。これはいったい何なんだ。
「猿の脳みそ」
彼女が俺を見透かしたように、そう言った。
俺は噴出してしまった。
「冗談よ。」
彼女が笑った。
「旦那さんは?」
俺が質問すると、彼女は単身赴任よと言った。なるほど、それで合点が行った。
「君、私をつけてたでしょ。」
そう言われ、俺は腹の底が冷えた。
俺が黙っていると、彼女は続けた。
「あの男性はね、カーシェアリングで知り合ったの。借りる人と貸す人の間で使用前後に傷等の確認をするために会うのよ。それで、何度かシェアを依頼しているうちにね。」
彼女が色っぽく笑う。
シャワー浴びてと彼女に言われ、俺は舞い上がった。
彼女は大人の女だ。割り切った関係でも俺は構わないと思った。
服を全て脱ぎ捨て、風呂のドアを開けたとたんに、異臭がした。
バスタブは真っ赤に染まり、俺の目の前に、頭を丸く切り取られ、脳が露出した男が沈んでいた。
「カーシェアの彼よ。彼の脳、美味しかった?」
俺は盛大に胃液をぶちまけた。
「今度は、人体実験物を書くわ。楽しみでしょ?」
彼女は、俺がファンだってことも知ってたのか。
「ああ、でも、次の更新はもう読めないのか。」
彼女が笑いながら、大きなサバイバルナイフを俺の胸につきたてた。
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