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背中を向けているから、先生の顔は見えないけれど…
どこか弾んでいるように聞こえた。
『空がめちゃめちゃ高いぞ~♪』
『………』
空はもともと高いですけど…
『手、伸ばしたくなるなぁ~』
『………』
ほんの少しだけ振り返って様子を窺ったら、
先生は窓の方を見ていて、本当に手を伸ばしていた。
ギョッとした私。
何故かいけないものを見てしまったような気持ちになって、慌てて視線を戻す。
『昔さぁ~、空飛べるって、本気で思わなかった?』
『………』
思いません。
『俺、本気で信じてたんだ~』
『………』
『ねぇ、こんな日は外に散歩とか行きたくならない?』
『………』
『俺と一緒に、さっ』
『………』
この人、本当に先生なのだろうか?
先生の口から出てくる言葉に、先生らしさを感じられるような言葉が、
かけらも見つからないんですけど…
黙り込んでいる私の背中に、先生は独り言のように呟いている。
『あぁ~、次の授業、緊張するなぁ~…』
先生の覇気のなくなった声に、ゆっくりと上半身を起こす。
『おっ、起きたか…顔色、そんなに悪くないじゃん♪』
二カッと笑う先生。
やっぱり先生らしくない。
『……………なんで?』
私の声は小さくて、先生の耳まで届かない。
『ん?』
首を傾げた先生に、
『なんで、緊張するの?』
と、尋ねたら…
『おえらい先生が後ろに並んで俺の授業見てんだよ、』
だって…
『………』
『あ~~~、やだやだやだっ』
愚痴る先生に、
『そんなこと私に……言っていいんですか?』
先生が生徒に愚痴るなんて、聞いたことないんですけど……
私の小さな疑問は、
『だって、お前、友達いないから、告げ口するような相手、いないだろ?』
って………
信じられないっ!
フンと鼻を鳴らして、またも背中を向けてベッドにもぐりこんだ。
『またな、』
どこか楽しげな先生の声が聞こえて、
カラカラとドビラの閉まる音。
一人になった保健室。
何故か今日は寂しくなかった。
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