第1章

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背中を向けているから、先生の顔は見えないけれど… どこか弾んでいるように聞こえた。 『空がめちゃめちゃ高いぞ~♪』 『………』 空はもともと高いですけど… 『手、伸ばしたくなるなぁ~』 『………』 ほんの少しだけ振り返って様子を窺ったら、 先生は窓の方を見ていて、本当に手を伸ばしていた。 ギョッとした私。 何故かいけないものを見てしまったような気持ちになって、慌てて視線を戻す。 『昔さぁ~、空飛べるって、本気で思わなかった?』 『………』 思いません。 『俺、本気で信じてたんだ~』 『………』 『ねぇ、こんな日は外に散歩とか行きたくならない?』 『………』 『俺と一緒に、さっ』 『………』 この人、本当に先生なのだろうか? 先生の口から出てくる言葉に、先生らしさを感じられるような言葉が、 かけらも見つからないんですけど… 黙り込んでいる私の背中に、先生は独り言のように呟いている。 『あぁ~、次の授業、緊張するなぁ~…』 先生の覇気のなくなった声に、ゆっくりと上半身を起こす。 『おっ、起きたか…顔色、そんなに悪くないじゃん♪』 二カッと笑う先生。 やっぱり先生らしくない。 『……………なんで?』 私の声は小さくて、先生の耳まで届かない。 『ん?』 首を傾げた先生に、 『なんで、緊張するの?』 と、尋ねたら… 『おえらい先生が後ろに並んで俺の授業見てんだよ、』 だって… 『………』 『あ~~~、やだやだやだっ』 愚痴る先生に、 『そんなこと私に……言っていいんですか?』 先生が生徒に愚痴るなんて、聞いたことないんですけど…… 私の小さな疑問は、 『だって、お前、友達いないから、告げ口するような相手、いないだろ?』 って……… 信じられないっ! フンと鼻を鳴らして、またも背中を向けてベッドにもぐりこんだ。 『またな、』 どこか楽しげな先生の声が聞こえて、 カラカラとドビラの閉まる音。 一人になった保健室。 何故か今日は寂しくなかった。
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