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場所は変わり、とある街のアパート。
そこに彼はいた。
「全く、つまらない世の中だ…。」
彼は床に寝転がりながらゲーム機を弄る。
画面の中では黒の衣装に身をつつみ、頭にも黒のシルクハットを被ったキャラが次々に敵をなぎ倒していた。その容姿はまるで怪盗チャップリン。とはいえ、本物はこのゲーム機を弄っている方なのだが…。
「はあ…もっとこう、頭をフル回転させて身体能力もフルに駆使して、追いかける側と熱戦を繰り広げる…そんな楽しいリアルは無いのかね…。」
彼は日々怪盗チャップリンとして世の中を沸かせながら、その実常はこんな風にぼやきながらひっそりとつまらない生活をしているのだった。
彼は表向き学生、いや、所謂ニートで、引きこもること早3年…しかし誰も彼を咎めるものはいない。
両親は彼が幼い頃既に他界、彼を育てることになった祖父母もたまに様子を見に来るくらいのもの。
怪盗チャップリンの真の姿は、ただの孤独に苛まれる少年なのだ。少年は、少し歪んでいるかもしれない。
彼は徐にゲームをやめると立ち上がり、アパートの部屋を出た。
そう、1つの目的だけが彼を今動かしている。
「マジかよマジかよ…こんな大事なことを忘れてたのかよ…!!」
大事なこと、それは――
自動ドアが開くと、軽快な音楽が彼を出迎える。
彼が来たのはスーパー。そして彼は、ある売り場へとダッシュしていた。
「あったぁぁああああああ!!!!」
柄にも無く彼は売り場で叫ぶ。周りの客はそれに驚き一瞬固まるがすぐにその場から離れていく。
そう、彼はこの抹茶プリンの為だけにスーパーまで来たのだった。
『本日、抹茶プリンが一つ100円!!安いよ安いよー!!』
スーパーのアナウンスにテンションを上げた彼は抹茶プリンを10個買うとその場を去った。
スーパーからアパートへと戻った彼はひどくご満悦な様子で10個の抹茶プリンを見つめていた。
そしてその中から1つを掴むとスプーンを手にゆっくりそれを味わう。
「はぁぁ…これだよ、これ!!この世界で唯一最高だと確信を持って言える!!!」
もうお気付きだろう。怪盗チャップリンの名前の由来は…そう、抹茶プリンだった。
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