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そして19時、今宵もまたショーが始まる。
いつもより、特別なショーが……。
「さて、昨日のうちに調べたルートは…っと。ここだな、よし。」
彼は昨日のうちに調べておいた天井からの侵入ルートからするりと美術館内に入り込み、辺りの様子を伺いながら静かに館内を歩く。
そして警官が集まり目的のレジェンドルビーを守っている様子を見ると密かにニヤリと口の端を吊り上げた。
またいつものやり方か…。そう思い余裕の一歩を踏み出した、その時だった。
明るかった館内が暗闇に包まれ、彼は一瞬動揺する。何故、まだ自分は何もしていない。明かりを消すのは確かに彼の常套手段。今夜もしっかり準備していた。しかしスイッチを自分はまだ押していない。
とりあえず様子を見ようと後ろを振り返ったその時、彼は目を見開いた。
後ろの通路に何時の間にか警官が配置されていた。
その隙に周りを警官に囲まれていくのが暗闇の中でも分かった。
なるほど、狭い通路が特徴的なこの美術館だ。考えたものだ。しかし、彼にはこの程度、余裕で切り抜けられる自信があった。
「第一、第二部隊!チャップリンとの距離を縮めろ!!」
聞き慣れた刑事の引き締まった声が館内に響く。
訓練された警官達の揃った足音が彼へと迫る。
そして――。
「かかれ!!!」
うおおおおおという閧の声が館内を彩る。場はさながらローマ時代の戦の様である。
1対362の壮絶な戦いである。しかし、彼は戦わず、襲いかかる彼らの頭上へと飛び上がる。
「ふっ…!」
気合いの入った一息と共に助走なしで高く跳躍した彼は目の前の警官の頭を踏むとさらに跳び移って行き、包囲を突破していく。
暗闇の中なので警官達は状況を把握できていない。
先程まで彼がいた辺りでは、警官を確保した警官が確保!!と大声で叫んでいる。
その様子に彼は笑いを堪えながらレジェンドルビーへと近づいた。通常なら近づいた時点でセンサーが反応して警報が鳴るのだが、先程警官達がレジェンドルビーに触れられるほどの近くにいたことから、センサーが切ってあると容易に判断できた。
そして彼はレジェンドルビーを本物と確認すると静かに館内から出ていった。
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