赤と青のマフラー

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「依頼されていたナットとネジが完成しました。」 オイル臭い工場で僕高岸 啓一 (たにぎし けいいち)は働いている。この工場は小規模で従業員も少なく一人辺りの仕事が多い。 今日は特に仕事が多く既に7時を過ぎているのに一向に片付かない。 オイルまみれの手で汗を拭い次の作業に取りかかる。 「おーい、谷岸お客さんだぞー」 工場の入り口から名前を呼ばれたので着けていた軍手を外し入り口に向かう。 「ハッピーバースデー!啓一!」 「えっ?」 外には幼馴染みの高見知佳が待っていた。 厚着のパーカーを羽織首には赤いマフラーが巻かれているがこれでは冬の夜は寒そうだ。 「ち、知佳!?どうしてここに?」 「どうしてって?幼馴染みの誕生日を祝ってあげようと思ってね」 (そうか今日は僕の誕生日か...すっかり忘れてたな) 「で、あとどのくらいで仕事おわる?どっかで飲もうよ」 彼女は僕の誕生日を祝うためにこんな所まで来た。 とても嬉しいけど.... 「ごめん...まだ全然終わらないんだ。悪いけど今日は無理だと思う」 そう言うと彼女は少し寂しそうな表情を浮かべたけどすぐに普段の表情に戻した。 「待ってるから...」 「え?」 「ずっと待ってるから早く仕事を終わらせてよ」 「待ってるって...あと何時間かかるか分かんないんだぞ。こんな寒い中で待つなんて風邪ひくぞ」 この辺りにコンビニなど寒さをしのぐ場所は無く、待ってる場所なんてない。 「そう思うなら早く終わらせてよ」 「だから...」 「おい!!谷岸早く仕事に戻れ!」 オーナーの怒鳴り声が工場から聞こえ慌てて「とにかく今日は帰って、また連絡するから」と知佳に伝え工場に戻った。 「ご苦労だった。今日はありがとうお疲れ様!」 オーナーの解散の合図と共に従業員達は帰り支度を始める。 「お疲れ様でしたー!」 僕は誰よりも先に片付けを済ませ外に出る。時間は9時を過ぎていた。 外は冷たい風が吹き付けておりジャンパーを着込んでいても寒い。 知佳の姿は無く僕は少しほっとする。 こんな寒い中2時間も待っていたら絶対風邪をひくだろう。 「良かっ...」 「け、啓一おつかれさま...」
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