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それは夕方のことだった。
「俺、行かなきゃ…」
鮮やかな茜色に染まる空は彼の旅立ちを見送っているかのようだった。
「やっぱり、行くんだ?」
彼女は少しだけ寂しそうに微笑む。
「もう逃げるのは嫌なんだ…」
本当は彼女もその答えが来ることはわかっていた。
「そっか…。」
「悪いな、心配かけさせちまって。」
「もう、ほんとだよ…」
そう笑いながら少し顔をうつむかせる。
「…ってるから。」
顔を上げた彼女の目尻には少しだけ涙が浮かんでいた。
「私、待ってるから…、ずっと待ってるから!」
「あぁ…。」
彼女の涙を堪えた精一杯の笑顔に、彼もまた微笑みを返す。
そして彼は体を後ろに振り向かせた…
スパァーン?
…と、ここで高らかな音が拓也の後頭部から発せられた。
「長いわぁ?」
さっきからずっと蚊帳の外で横から傍観していた奏がとうとう我慢出来ずに持っていたノートで拓也に一太刀浴びせただった。
「痛っ!」
頭を押さえる拓也。
…の横では先ほどまでいい感じのヒロインだった夏紀が我慢出来ずに吹き出していた。
「ぶはぁ! もうダメ…、アッハッハッハッ…。」
かなりツボったようで笑い泣きしながらひとりうずくまっている。
「あんた、忘れ物取りに学校に戻るまでに何分かかってんのよ! ていうか、ここ校門前なんですけど。道行く生徒が笑いながら帰っていくんですけど!」
「わ、悪い…」
「アッハッハッ…」
「それぐらいですむと思ってんの?だいたいなんでナレーション口でやってんの?あんたほんとに…」
「アッハッ…」
「ちょっ、夏紀うるさいんですけどっ!」
……今日も彼らは賑やかだ。
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