透明になるということ

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死ぬってこういうことなんだ。 私は、初めて死の意味を知った。 天国に行くとか地獄に行くとか、霊界があるだとか、そういった今までの生きていた頃の常識を覆すものだった。 死んだ瞬間に、私は体の中からはじき出された。 縁側には、私だった物がぶら下がっている。 でも、確かに私の意識はある。 私は、洗面所まで歩いて行き、鏡を見た。 何も映らない。 だが、腕も足も顔も確かに存在した。 自分の手で輪郭を確認し、今までとなんら変わりない感覚がある。 手をつねってみた。夢なのではないかと。 どうやら痛いという感覚はもう消えているようだ。 これは夢なのだろうか。それとも現実か。 縁側に戻ると、確かに私だった体がぶら下がっている。 魂も形を持っているのかな。 魂というと、人魂を思い浮かべるのだけど。 飛べるのだろうか。ためしに、羽ばたいてみたが飛べない。 自分でもおかしくなった。 私は、その状態で、何日も自分の体が腐り朽ち果てるのを眺めていた。 10日経ったある日、長屋の大家さんがようやく私の死体を見つけてくれた。 だいぶ痛んでいたし、首吊り死体なんて見たことないので、それは腰を抜かして驚いていた。 大家さん、ご迷惑をかけて、ごめんなさい。 透明になった私は、大家さんに頭を下げた。 天に召されるだとか言うのは嘘なんだな。 私はまだ、ここに居る。 愛しのアキトが、私のささやかなお葬式に来てくれた。 ようやく会えたね、アキト。 でも、傍らには、美しい異国の女性が居る。 奥さんには、幼馴染って言ってるんでしょうね。 私の透明の体に真っ黒な感情が満たされて行く。 私は、玄関を出て自宅に帰る、アキトの後について行った。 ずっと、側にいるよ。 目には見えないけど。 ずっと待ってるよ。 あなたがこっちに早く来れるように、私はこれから知恵を絞るから。 だからね、早くこっちに来てね。
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