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あの一人称と三人称をいくら教えても憶えなかった寛子が──わたしは茫然自失に陥った。
学生時代から小説を書き殴っていたのに、最近は原稿用紙1枚も文字で埋めることが出来なくなっていた。
よく小説指南の書籍で、小説が上手くなるには「とにかく書くしかない」とのたまう。
あれは不正直である。
書いて書いて枯れてしまう者はどうするのか?
世の中の常で、最後は才能なのだ。書き続けるには、その才能がいるのだ。
寸暇を惜しんで書いて、それで小説家になれるのなら苦労はしない。宇宙に行けば宇宙飛行士になれるというのと一緒である。
だから、「とにかく書くしかない」という論法は、持てる者のエゴだ。
極論は、その人が取捨選択してきたモノの積み重ねが小説家をつくるのである。
同じテレビ番組を観て、同じ学生生活を送ってきた者に、それほどの差違は生まれない。
それならば、本をたくさん読んだ自分の方が有利なはずだ。小説家の才能があるはずだ。
だがしかし、残念なことに発想力が不足していた。発想の飛躍がない。飛べない鳥と同じだ。
それでも高校の時を想い出すと、寛子にその才能は皆無だった。
では、どうしてあれほどの小説が書けるようになったのか?
それで渾身の勇気を振り絞って、作家になった寛子に小説を書く秘訣を教わりに行ったのだ。
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