小説の書き方を、教えます

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 その結果が、先刻の惨状である。  ほとほと自分が嫌になった。もう消えてしまいたい。  それでも作家になる夢、いや妄執だけは棄てられなかった。  彷徨う足は迷いに迷って、いつもの如く国会図書館に向かっていた。  この図書館ならばネタ探しが容易だと思って、寸暇を惜しんで通っているのだ。  そんなモノは、樹海の森で目印のついた落ち葉一つ探す暴挙に等しい。  何が書きたいのかも判らずに、情報の大海でカナヅチが泳ぐほど愚かな行為であろう。  端末のパソコンを利用しようとして、ふと誰かの登録利用者カードが挿してあることに気づいた。  国会図書館ではこのカードで、登録して指定の本や資料を手配するシステムになっているのだ。  当然、登録時にはIDとパスワードが必要である。  そこに挿してあるカードの利用者氏名には、小さな文字で「岡田寛子」とあった。  数時間前に逢った六分儀恭子の顔が脳裏をよぎる。 (何という偶然なの……!?)  そのカードを指でつまむと、ご丁寧に裏にパスワードが鉛筆書きされている。  わたしはキョロキョロと辺りを窺いながら、震える指でパスワードを打ち込んだ。  スッと画面が変わり、利用案内のページが開いた。 (これは……小説の神様が、わたしに救いの手を差し伸べているのよ)  眼筋麻痺するほど視線を巡らしながら、わたしは寛子のマイリストにカーソルを泳がせた。
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