小説の書き方を、教えます

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 国会図書館では検索履歴の保存が可能で、自分のための資料リストを作成することが出来るのだ。  あらかじめ自宅で資料を検索してマイリストに登録しておくと、来館してからの検索作業が不要になる便利な機能である。 (天才作家・六分儀恭子は、一体どんな本を読んでいるのだろうか?)  許されぬ行為だと知りつつ、身を焦がす誘惑には勝てなかった。  わたしにだって、作家になる権利があるんだ!  マイリストには──『岡田建文 文学日記』──とだけあった。  それはデジタルコレクションとして閲覧可能だった。  デジタルコレクションとは、古い書籍で劣化の激しい資料をデジタル化して閲覧するサービスである。  恐るおそるカーソルを持っていく──。  突然、わたしの視界に赤いヒールが飛び込んできた。  天才作家・六分儀恭子が目の前に毅然と立っていた。その視線は利用者カードに落ちている。 「……町子……また逢ったわね」 「寛子……こ、これ忘れ物よ」慌ててカードを手渡した。 「ありがとう町子……あなたもここを利用するのね?」 「作家になる夢を棄てられなくて、それで四苦八苦しているのよ、往生際が悪くね」  引き攣った表情筋を無理ヤリ笑みの形にして、わたしは話をシドロモドロに取り繕った。 「そう……お互いに頑張りましょうね」  虚空を見据えたままの瞳が逸れて、ついと寛子が歩み去ろうとした。  ホッと安堵のため息をもらそうとした刹那──
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