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「町子……ずっと待ってるからね」
不意に寛子が振り返り、含み笑いをしながら囁いた。
わたしは高校時代の自分のセリフを揶揄されたと不快に思ったが、その時にはもう彼女は遠くへ行っていた。
それでもわたしは、天才作家・六分儀恭子の秘密の一端──『岡田建文 文学日記』を知った。
早速、自分のカードで検索すると、それをコピー依頼した。
残念ながら著作権があるので半分しかコピー出来なかったが、それでも十分だった。
家に帰ってそれを読むと、岡田建文なる人物は大正末期から昭和初期の人物であるらしい。
元は新聞記者で、そこから文筆家に転向したとある。
民俗学の柳田国男と親交があったが、どうやら心霊主義に傾倒して文壇を追い出されたようだ。
その後は空襲で家族を亡くして、自身も半死半生のまま日本文壇を呪いながら余生を送ったらしい。
コピーが半分しかないから、その後の岡田建文なる人物の顛末は不明である。
こんないかがわしい人物の文筆を、寛子はどうしてリストに入れていたのであろうか?
──その夜、わたしは夢を見た。
脳細胞に焼き付くように、強烈で鮮明な夢だった。
──わたしは幼い頃から不思議な音楽を聴く娘で、その音楽を求めて国中を旅して、様々な土地の人と出逢い別れて、やがて盲目の青年に恋をする。
そして子供を産むが、その子は病弱で、しかも盲目の夫は戦争に従軍しなければならない。
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