彼女をとるか暖をとるか

6/6
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
透明人間になれば、彼女を救えるかもしれない。 しかし……その作戦をぶち壊す、最大の問題があった。 寒い! さっきから体が震え、縮こまり、指先がかじかんでいる。 この中で……この寒さの中で……身につけている装備を全て外せだと……!? 脱衣所の比じゃないんだぞ!! 人間としての進化を、尊厳を、失うことになる!! 頭がおかしい!! そう叫びだしかけたが、その問題はさしおいて、とりあえず警察を呼んだ。 彼女を助けるためには透明人間にならねばならない。 しかしそのためにはこんな寒さで裸にならねばならない。 いや、当然ながら彼女を救う方を選ばなきゃならない。そうだろう。 だが一層強く吹き付ける風がその心を吹き飛ばす。 しかし早くしないと彼女の身になにかあるかもしれない。 でも思ってるよりも早く警察が来るかもしれないし…… 何を言ってるんだ一分一秒を争う事態だぞ。 とはいえ気温は絶対に一桁に違いないし。 そんなこといって彼女が奪われてもいいのか。 そんなこといったって裸じゃ一瞬で体温が奪われてしまう。 くそっ……!そんなこと言ってられないだろ……! 俺は……確かに寒さが嫌いだ、大嫌いだ! でもそれ以上に暮ちゃんが好きなんじゃないのか……!? ………………行くしかない。 俺はヘルメットをとった。 そしてコートを脱ぎ、セーターを脱ぎ、シャツを脱ぎ…… 寒さの前に何度も立ち止まり、脱ぎ止まったが、それを乗り越え、俺は全ての衣服を脱ぎ去った。 なんだか寒すぎて逆にテンションがおかしくなってきた。 余談だが、正義と寒さを天秤にかけるようなこんなヒーローに、もしも名をつけるなら、不名誉なこんな名がお似合いだろう───と思った。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!