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答えるな
「クロ! 元気だったか?」
「にゃあん」
盆の休みに、母方の祖父母の家に来た。そこで真っ先に俺を出向かてくれた存在。
じーちゃんの家の猫。名前はクロ。
前に来た時もすっごく懐いてくれて、今日、会えるのが楽しみで仕方なかった。
着いてからずっと一緒に遊んでいて、もちろん寝る時も一緒だ。
用意してくれた布団に横たわると、クロが隣に寝そべる。お互い暑いからはりつていはこない。それでも仲良く隣に並んで、俺はクロの尻尾をちょっと触りながら眠りに落ちた。
…どのくらい時間が経っただろうか。
誰かに話しかけられ、俺は眠りから覚まされた。
辺りはまだ真っ暗でろくに時計すら見えない。その闇の中、部屋に誰かが来ていた。その人が俺に話しかけてくる。
「あなたの名前は?」
「どこから来たの?」
「歳はいくつ?」
そんなありきたりの質問が幾つか。
後でよくよく考えれば、夜中に知らない誰かが部屋に来て、あれこれ質問をするなんておかしすぎる状況だ。でも、この時の俺は半分寝惚けていて、正常な思考が働いていなかった。そのせいで、質問だけが聞き取れ、それに返事をしようとした。
ふいに、口元にクロの手が伸びてきた。
伸びでもしたのか、ぐいと俺の口を押さえるように前足を突っ張る。そのせいで返事が喉の奥に引っ込んだ。
おいおい、クロ。寝相が悪いぞ。
そんなことを考えながら、クロの頭を一つ撫で、脇へどけようとした。でもクロは俺から離れない。この暑いのにべたりと俺にすり寄り、口をふさぐように顔の上に前足を置く。
その間にも、誰かの質問は繰り返されていたが、その口調や声の質が次第に変わっていくのが判った。
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