0人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
そんな葵にも、一つだけ、趣味があった。
小説だ。
スマホで気軽に投稿できる、いわゆる携帯小説。
別に小説家になろうとなんて思ってない。
ただ、小説ならば、見た目に関わらず評価されない。
やっぱり、ちょっとは気になるのだ。見た目に関わらない評価も。
それに、匿名なら知り合いからでも分からないから、傷つくこともないのでは。
ーーーそう思ったのだが。
ぱっと目を引く奇抜なアイデアも、心躍らせるような文章に、誰も熱心にコメントしてくれる人なんていなかった。
「……まっ世の中そんなもんよねぇー。」
そう言って諦めながらも、葵は少しずつ文を打っていく。
…いつか、いつか、誰かが素敵な文章ですねって言ってくれないかなあ。
いや、逆にこれでもかってくらい、批判されてもいい。
『…こうして、私は彼と図書館でデートをした。彼をちらりと盗み見る。胸が早く波打つ。そんな心臓を抑えるように、私は必死に教科書を覚えようとした。でも、いくら集中したって、私の頭にキューリ夫人という単語は入ってこなかった。』
葵が書いているのは、ベタベタな恋愛小説だ。
ーーーいつか私にも、こんな恋ができたらな。
そんなことを夢見て、また1つ、文を重ねた。
最初のコメントを投稿しよう!