腕振り上げ

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そんな葵にも、一つだけ、趣味があった。 小説だ。 スマホで気軽に投稿できる、いわゆる携帯小説。 別に小説家になろうとなんて思ってない。 ただ、小説ならば、見た目に関わらず評価されない。 やっぱり、ちょっとは気になるのだ。見た目に関わらない評価も。 それに、匿名なら知り合いからでも分からないから、傷つくこともないのでは。 ーーーそう思ったのだが。 ぱっと目を引く奇抜なアイデアも、心躍らせるような文章に、誰も熱心にコメントしてくれる人なんていなかった。 「……まっ世の中そんなもんよねぇー。」 そう言って諦めながらも、葵は少しずつ文を打っていく。 …いつか、いつか、誰かが素敵な文章ですねって言ってくれないかなあ。 いや、逆にこれでもかってくらい、批判されてもいい。 『…こうして、私は彼と図書館でデートをした。彼をちらりと盗み見る。胸が早く波打つ。そんな心臓を抑えるように、私は必死に教科書を覚えようとした。でも、いくら集中したって、私の頭にキューリ夫人という単語は入ってこなかった。』 葵が書いているのは、ベタベタな恋愛小説だ。 ーーーいつか私にも、こんな恋ができたらな。 そんなことを夢見て、また1つ、文を重ねた。
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