0人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
腕振り上げ
彼と出会ったのは、高校2年生の夏だった。
葵はガサツな性格とは裏腹に、とても清楚な美人だ。
ストレートなさらさらとした短い黒い髪。
高すぎず、低すぎず、すらりとしたシルエットに、程よく凹凸の付いた体。
そして、透き通るような白い肌。
その肌に浮かぶ、すらりとした高い鼻に、血色のいいピンクの頬、少しつり上がった大きな黒い目、ぷっくりとした形の整った唇。
何を取ってもパーフェクトで、その全てが誰をも魅了する。
告白だって日常茶飯事だ。
履いて捨てても捨てきれないラブレター。
今時ラブレターなんて何だソレ、くっだらねえ。
見た目しか興味ねえ奴なんて土に埋もれちまえ。
そう言って目もくれずゴミ箱に捨てる姿は、女子からも好感をもたれた。
清楚なのにガサツで面白い、というギャップが女子には受けたらしい。
中学の頃は、葵も"ちょっと良いな"と思う男の子から告白されて付き合ったこともあった。
でもーーー
「なんか、葵って思ってたのと違うってゆーかさ、もっと清楚でお嬢様かと思ってた。
から…なんか普通だし、がっかりだわ」
葵の"ちょっと良いな"という予想とは異なり、男の子達が好きなのは"葵の外見から来るイメージ"だった。
葵のガサツな性格は誰にも受け入れられず、勝手に期待されては、一人で傷ついてきた。
そのうち、葵はどの男の子を見てもちょっと良いな、なんて思うことはなくなった。
また、女子に対してもだった。
ーーー私がガサツじゃなかったら、きっとこの子たち、ぶりっ子って言っていじめてくるんだろうな。
女子が口にする"清楚そうなのに"ガサツだから、という言葉を聞くたびに、清楚じゃなかったらどう思うんだろうと怖くになる。
また、ガサツじゃなかったら。
でもそれを聞くのは怖い。
もしも、本当にそのどちらかでも欠けてしまったら、ガッカリするのでは。呆れられてしまうのでは。
物心ついた頃から、見た目を抜いた評価をされたことが無い、中身だけの評価。
それを友達だと信じる人から見てしまうのは、とてつもなく怖い。高校生になった、今でも。
だから、葵は今日も適当な笑みを浮かべ、ガサツに、
遠くも無いけど踏み込めない、微妙な距離を保ちながら女子と仲良く談笑する。
ーーー本当は少し、踏み込みたい気持ちを隠しながら。
最初のコメントを投稿しよう!