腕振り上げ

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腕振り上げ

彼と出会ったのは、高校2年生の夏だった。 葵はガサツな性格とは裏腹に、とても清楚な美人だ。 ストレートなさらさらとした短い黒い髪。 高すぎず、低すぎず、すらりとしたシルエットに、程よく凹凸の付いた体。 そして、透き通るような白い肌。 その肌に浮かぶ、すらりとした高い鼻に、血色のいいピンクの頬、少しつり上がった大きな黒い目、ぷっくりとした形の整った唇。 何を取ってもパーフェクトで、その全てが誰をも魅了する。 告白だって日常茶飯事だ。 履いて捨てても捨てきれないラブレター。 今時ラブレターなんて何だソレ、くっだらねえ。 見た目しか興味ねえ奴なんて土に埋もれちまえ。 そう言って目もくれずゴミ箱に捨てる姿は、女子からも好感をもたれた。 清楚なのにガサツで面白い、というギャップが女子には受けたらしい。 中学の頃は、葵も"ちょっと良いな"と思う男の子から告白されて付き合ったこともあった。 でもーーー 「なんか、葵って思ってたのと違うってゆーかさ、もっと清楚でお嬢様かと思ってた。 から…なんか普通だし、がっかりだわ」 葵の"ちょっと良いな"という予想とは異なり、男の子達が好きなのは"葵の外見から来るイメージ"だった。 葵のガサツな性格は誰にも受け入れられず、勝手に期待されては、一人で傷ついてきた。 そのうち、葵はどの男の子を見てもちょっと良いな、なんて思うことはなくなった。 また、女子に対してもだった。 ーーー私がガサツじゃなかったら、きっとこの子たち、ぶりっ子って言っていじめてくるんだろうな。 女子が口にする"清楚そうなのに"ガサツだから、という言葉を聞くたびに、清楚じゃなかったらどう思うんだろうと怖くになる。 また、ガサツじゃなかったら。 でもそれを聞くのは怖い。 もしも、本当にそのどちらかでも欠けてしまったら、ガッカリするのでは。呆れられてしまうのでは。 物心ついた頃から、見た目を抜いた評価をされたことが無い、中身だけの評価。 それを友達だと信じる人から見てしまうのは、とてつもなく怖い。高校生になった、今でも。 だから、葵は今日も適当な笑みを浮かべ、ガサツに、 遠くも無いけど踏み込めない、微妙な距離を保ちながら女子と仲良く談笑する。 ーーー本当は少し、踏み込みたい気持ちを隠しながら。
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