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「梢…そんなに悪いのか?」
すぐるが、身を乗り出して聞いてくる
「あ…いや…」
俺は、体を仰け反らせ、すぐるから離れる
「まだ、本調子じゃなくてさ…ほら、退院したばっかだから」
苦し紛れの言い訳をする
すぐるは、怪しむように俺を見たが
「そっか、まだ伊豆の叔父さん家に居るのか?」
「うん…」
俺は、梢の事を言えずに隠している
武藤 梢(むとう こずえ)は、俺の双子の妹だ
双子と言っても、二卵生で殆ど似てない
梢は、小さい頃から体が弱く、激しい運動は医者から禁じられていた
その梢は今、病魔に犯されている
もう、治る事はないと、俺は3年になった春、両親から告げられた
「克樹、梢は後どれくらい生きられるか分からないんだ」
父親の言葉は、まるで他人事のように聞こえ、現実味がなかった
『お兄ちゃん、元気になったら、また学校行けるよね』
梢の儚い笑顔が頭の中に浮かぶ
「克樹…克樹!」
俺がハッとすると、目の前に居るすぐるが、首を傾げ俺を見ていた
「ボーっとしてどした?」
「いや、何でもない、そろそろ帰るか?」
教室の中には、生徒がまばらに居るだけだった
その生徒達も、1人2人と帰って行く
「夏休みさ、梢ん所行こうぜ」
「駄目だ!」
俺の声が、やけに大きく教室に響いた
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