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「もう、治らないんだって」
真っ白なカーテン。真っ白な天井。真っ白なシーツ。真っ白なベッド。
色を失った空間の中、時折、鼻孔をくすぶる薬品の匂いに包まれながら、清都(きよと)は起伏のない声でそう言った。
「それで……キヨはどうすんの」
簡易ベッドの横に用意された椅子に腰掛けることなく、紺色のブレザーを身に纏った少年──真尋(まひろ)は大きなエナメルバッグを肩にかけたまま立ち尽くし、清都にそう問うた。
「どうもしないよ。どうもできないだろ」
「サッカーは」
「できないよ。もう治らないって医者から言われたって、さっき言っただろ」
「でも、」
「間に合わないよ、この怪我じゃ。どう頑張っても、俺らの引退試合には」
窓の外に視線をやっているため真尋がどんな顔をして自分を見ているのかはわからないが、どうやら彼の疑問の波は収まったようだった。
「ここらが潮時だったんだよ。俺のサッカー人生は」
気がつけば、自分の口からそれは迸っていた。
「この一年、死ぬ気でやった。毎日毎日朝から晩までひたすらサッカーボール追いかけて、吐きそうなほど走り込んで。それでもアイツらには追いつけなかった。勝てなかった。そして俺はこのザマさ。これが現実だよ」
先日行われた、秋季高校生サッカー選手権地区関東予選。
清都、真尋の所属する鳴条(めいじょう)高校は惜しくも県三位という結果に終わり、上位二校のみが得られる関東大会出場権を逃したのだった。
地区リーグ第一位の強豪校である柊木(ひいらぎ)高校に先制点を決めるも後半に一点返され、延長戦にもつれ込み、結果PK戦で敗れた。
鳴条高校サッカー部はこれまで弱小校として、二部リーグでも下位を争うほどの実力だった。
ちょうど一年前、先輩たちも柊木高校と当たり、八対〇という大差をつけられ完全に敗北した。
この惨劇を二度と繰り返してなるものかと、清都たちはこの一年半死物狂いで練習に励んできた。
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