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春に行われる関東地区予選──出場枠は一つのみ──とは異なり、出場枠が二枠の秋季関東地区予選が、彼らにとって最後のチャンスだった。
勝てると思った。行けると思った。
だが、現実はそんなに甘くはなかった。
エースとして十番を背負い、チームを率いてきた清都は大怪我を負い、関東大会出場という目標を掲げ頑張ってきた鳴条高校サッカー部の希望は、絶たれたのだった。
「キヨ、お前はそれでいいのかよ」
静寂に押しつぶされてしまいそうなほど小さな、しかしはっきりとした声で真尋が言葉を紡ぐ。
「いや……だからさ、もう無理なんだって。足が──」
「お前は、」
半ば怒り気味に語気を強めていった言葉は、真尋のそれに行く手を阻まれ尻込みする。
「お前自身は、どうしたいんだ」
「俺、は」
関東に行きたかった。柊木高校を打ち負かしてやりたかった。もっと点を決めたかった。そして、もっと彼らとサッカーがしたかった──
挙げればキリがない、己の内に湧き上がってくる思いと感情。
だが、それはもうどうにもならないことばかりで。
足にしがみつく亡霊と言う名の後悔とやり場のない怒りに清都はきつく拳を握り締め、そこでようやく真尋を見た。
「ヒロ……?」
彼は、泣いていた。
「キヨ、俺はさ。もっと、お前とサッカーしたいよ」
双眸からとめどなく溢れだす涙を拭うこともせず、真尋は自分の想いを言葉に変えてゆく。
「春の大会だって、完全にチャンスが消えたわけじゃない。お前が、キヨが戻ってきてくれれば、まだチャンスはある」
それに、と彼はなおも続ける。
「みんな信じてるから。お前が怪我治して戻って来るのをさ」
「ヒロ……」
「俺は諦めねぇよ。なんたって、お前の回復力は化け物並だからな」
ニカッ、と。大粒の雫を瞳いっぱいに貯めて、それでも真尋はいつもの無邪気な笑顔を見せて笑った。
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