第1章

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予期せず掘り返された過去の思い出が、ちらりと脳裏を掠め通り過ぎてゆく。 「は、はは……なんだよ、それ。どこが化け物なんだよ」 「去年の今年の冬の話! 階段から滑って落ちて、足にヒビ入れたアホはどこのどいつだっけ? 挙句、その全治一ヶ月の怪我をたったの一週間ちょいで治して、すぐに復帰したのはどこの誰だ? ん?」 「……俺だよ」 「なんだ、分かってんじゃん」 人好きのする笑みを浮かべて、真尋がカラカラと笑い声をあげる。 真尋は清都にとって、親友であり、かけがえのない仲間であり、そして最大の好敵手でもあった。 毎日部員の誰よりも早く登校し、馬鹿みたいに笑いながら自主練をし、暇さえあれば練習メニューや新しい作戦を話しあい、部活が終わればその日の練習の事や部員のこと、主にサッカーのことを熱く語り合いながら帰った。 小学校も中学校も違う、高校のクラスも違えば入部するまで面識すらなかった彼が、今では清都にとってかけがえのない存在だった。 「──ヒロ」 口をついて出た言葉は、ほんの少しだけ震えていて。 「俺さ、やっぱり鳴条高校サッカー部に入ってよかった」 「……おう」 「辛いことや苦しいこともたくさんあったけど、それでも──」 なおも清都は続ける。 「お前に出会えて、よかったよ」 途端、彼の瞳に浮かぶは淡青色のそれ。
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