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茜色に染まりゆく緑葉が、乾いた風に攫われて共鳴し始める夕暮れ時。
色欠だった病室が、ようやく命を吹き返した。
「キヨ、俺そろそろ行くわ」
「おう、さんきゅな」
チャックの隙間から見える青色のサッカーボールに目をやりながら、清都は微笑む。
とそこで、真尋が澄んだ声で清都の名を呼んだ。
首を巡らせ、清都は真尋を見る。
「俺、諦めねぇからな」
「……」
「お前が戻ってくるまで、十番は誰にも渡さない。エースの座も俺の相棒の座も、絶対に」
すうっ、と真尋が胸を膨らませて深く大きく息を吸い吐き出し、
「ずっと、ずっと待ってるから」
そう、言った。
自分の内で暴れまわる何かを鎮めようと深呼吸を試みるも、喉の奥が震えてそれほど効果は見られない。
震える声を自制することもせず、清都はゆっくりと口を開いた。
「……ヒロ、あのさ。今回ばっかりは少し、時間かかっちまうかも、しれねぇけど。でも、必ず戻るから。だから、それまであいつらのこと、頼むわ」
「おう。任せろ──っと、もうこんな時間か」
腕に巻き付く時計を見、真尋は拳を突き出し、言う。
「それじゃ、またな相棒」
真尋が笑う。
「おう。またな、相棒」
彼に合わせて作った拳を、清都も胸の高さまで持ち上げる。
突き出された拳と拳が、高々と歓喜の声をあげてコツンとぶつかった。
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