第三章

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パトカーからお巡りさんが降りてきた。 「通報した片桐さんは……」 「あ、僕です」 こうして私の透明人間冒険は幕を閉じた。 警察やお母さんにどうしてあんなところに居たのか、散々聞かれたけど廃墟に興味があったという苦しい言い訳を押し通しきった。 明慶くんは大学院の実験があるといってしばらく学校に通い詰めで会えない日が1週間続いた。 研究が終わる予定日と聞かされた日になった。 私は明慶くん家に行ってみることにした。 持っている合鍵で中に入る。 両親が共働きだからちっちゃい頃から明慶くんの家に入り浸っていた私。 でも、彼女とか出来たら私は邪魔だよね。 とすんとソファーに座った。 気づくと明慶くんがソファーに座って科学雑誌を読んでいた。私は向かいのベッドで明慶くんの趣味のモネの原画集を眺めている。 ああ、これは夢だ、と思った。 私はこうして明慶くんの家でまったりするのが大好き。 いつまでこんな時間を過ごせるのだろう。 肩を叩かれた気がした。 目を覚ますと明慶くんが居た。 「ただいま」 「……おかえり」 「ちゃんとごはん食べてる?」 「こっちのセリフだよ。実験中はちゃんと食べた?」 「学食があるからね。ちゃんと食べたよ」 「そう……」 「事件の後はちゃんと眠れてる?」 「うん」 「よかった」 明慶くんは冷蔵庫に移動してシュークリームを2つ取り出した。 私に1つ渡して自分も食べる。 シュークリームは甘くておいしかった。 横に座っていた明慶くんの手が私の頬に触れた。 「あの時、殴られたでしょう? 腫れてたね」 「そうかな」 「怖い思いさせてごめんね。僕があんな薬を作らなかったら……」 「悪いのは私だよ。勝手に離れたんだから」 「そう言えばどうしてあの時離れたの?」 不思議そうな顔をする。 「明慶くんと仲のいい女の人について話してたから聞いちゃいけないと思って」 「仲のいい人? ……ああ、松石さんのこと」 笑いながら明慶くんは言った。 「あの人はねえ、既婚者なんだよ」 「大学生で結婚していたってこと?」
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