第二章

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「いい? これは実験なんだから、くれぐれも僕からはぐれないこと」 実験を念押ししてくる。 「わかってるよ」 私は、はしゃいだ気持ちを抑えて答える。 「ならいいけど」 本当はそういう明慶くんがかなりテンション上がっているように見える。 玄関を出てみるといつもの風景なんだけど、気分が違って見えてくる。 明慶くんが鍵をかけていると近所のおばあちゃんが通りかかった。 「あら片桐さん、お出かけ?」 「ええ、まあ」 「今日はいい天気ねえ」 「そうですね」 「あら、今日はみかちゃん居ないの?」 「……そうですね」 ほんとは私が隣にいるから微妙な表情の明慶くん。 「2人は兄弟みたいに仲がいいのに珍しいわね」 「でもみかちゃんは来年高校生ですから昔ほどは遊びに来なくなるでしょう」 「まあ、みかちゃんはもうそんな年齢になるのね。片桐さんは学校の方はどうなの?」 「まあ、ぼちぼちですね」 「最近就職が大変って言われているじゃない? 私達の頃とは景気が違うわよね……」 おばあちゃんのトークは止まりそうにない。 明慶くんは、うんうんと相づちを打っている。 おばあちゃんの話が終わらなくて暇だな、と思っていたらおばあちゃんの持っている手提げの紙袋の端が少し破れてリンゴが1つ転がり落ちた。 気づかないおばあちゃん。 私は落ちたリンゴを拾ってみる。 宙に浮くリンゴ。 その時、明慶くんと目が合った気がした。 「あら、片桐さんどうかなさったの?」 「いえ、別に」 「それで、みかちゃんの所のワンちゃん……なんて名前だったかしら?」 「ココ、ですか?」 「そうそうココちゃん。とてもかわいくってねぇ」 私はそっとおばあちゃんが持っている紙袋に入れる。 「それでね……あらやだ、私ったら長話してごめんなさいね」 「いえ」 「ではまたね、片桐さん」 おばあちゃんは家へと帰って行った。 おばあちゃんの姿が見えなくなった時だった。 「みかちゃん、さっきリンゴ拾ったでしょ」 「うん。おばあちゃん気づいていないみたいだったし」 「僕はひやひやものだったよ」 「でも、リンゴを拾ったことによって人知れずおばあちゃんの役にたったってことで」
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