第二章

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「みかちゃんは今、透明人間なんだよ。どんな事態が起こるか分からないじゃないか」 すごく真剣に言う明慶くん。過保護だなあ。 私は渋々手を取った。 手を繋ぐなんていつ以来だろう。小学校上がる前? なんだか照れくさい。 顔をそっとみる。 明慶くんはいつもと変わらない表情でいる。 私は周りを見回してみた。困っている人を見つけるって意外に難しい。 明慶くんは無言で歩いている。 私とおしゃべりしたら独り言を言ってる怪しい人になるからね。 「あれ? 片桐?」 どこかから声が聞こえた。 私はきょろきょろと辺りを見渡すと男の人がこっちに近づいてきた。 「片桐じゃん、久しぶり」 「ああ、久米。久しぶり」 「直接会うのは大学の卒業式以来じゃないか?」久米と呼ばれた人が言う。 「そうだね」 「お前は今何してるんだ?」 「大学院に行ってる」 「お前らしいな」 「久米は?」 「俺は今、デザイン会社に勤めてる」 「……久米が辞めないなんて驚きだな。すぐ飽きて辞めると思ってた」 「このやろ。俺が学生時代の俺だと思ったら大間違いだぞ」 笑いながら久米さんは言った。 「そうだ片桐、真田が結婚したって知ってたか?」 「真田って、彼女とさんざんもめたあの真田?」 「そうなんだよ。しかもあの彼女と結婚したらしいぞ。そろそろ結婚式の招待状を配り始めるって」 「へえ」 「そう言えば片桐は松石さんと連絡はとってるの?」 「あれからはとってないよ」 「へー。お似合いだったのに」 その後も久米さんは大学時代の友達が何をしている、とかおしゃべりをし始めた。 近所のおばあちゃんに引き続きまたおしゃべり。でもさっきのおしゃべりとは違って、大学時代の話だから、なんだか聞いちゃいけない話を盗み聞きしているみたいで居心地が悪い。 私はそっと明慶くんの手を放した。 明慶くんはこっちを見たけど久米さんの話は止まらない。 私は明慶くんから少し離れたところで町を行きかう人を見ていた。 知ってる。長い付き合いだけど私の知らない明慶くんを知っている人がいることくらい。 ホントは知らない。明慶くんが外ではどんな人か。どんな交友関係なのか。
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