第1章

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そして、あれから7年の歳月が流れた。 竹本、もう戻って来ちゃいかんぞ! テレビで観たことのある通りに、刑務所の守衛が俺に声を掛ける。 お世話になりました。 俺は俺で慣習に乗っ取って、一応小さく頭を下げる。 シャバの空気は美味いかって? 塀の中も外も空気は同じさ。 但し、深呼吸はいつもよりも深く長く何処までも新鮮な酸素を吸い込める気がした。 そして、それを咎める者もいない。 それが、釈放された誰しもに美味いと言わしめる理由だろう。 長かった刑務所暮らしの間に、俺の中にくすぶっていたやさぐれた感情にも変化が訪れていた。 相変わらず、彼女からは何の音沙汰も無かったが、俺はふたたび1年前に一通の葉書を送っていた。 もしも・・・もしも、まだ俺のことを忘れずに待っていてくれるなら、一緒に住んでいたアパートのベランダに黄色いハンカチを干しておいてほしい。 勿論、過度の期待はしちゃいない。女たった一人であのボロアパートなんかに住んでいる訳がない。 懐かしい駅名のホームに降り立った。 片側1車線だったホームが、いつの間にか高架式のモダンな作りに建て替わっていた。 駅舎だった建物自体も、高層デパートのテナントが入った駅ビルに取って代わっていた。 これが時間の流れってヤツなのか。 ささやかながら抱いていた僅かの希望もどうやらこの場に置いていった方が良さそうだ。 昭和の臭いのしていた駅前のアーケード商店街もどうだ、モルタルの屋根は取っ払われ、陽がさんさんと射し込む明るい雰囲気へと生まれ変わっていた。 角の串カツと焼き鳥が美味かった立ち呑み屋など、小洒落たオープンカフェなぞに建て替えられており、まるで街全体にここはお前なぞが来る場所ではないと、拒絶されているみたいだった。 いよいよ、次のマンションの角を曲がり、少し行くと俺と彼女の住んでいたアパートだ。 待てよ、落ち着け。俺は映画の高倉健じゃない。駄目で元々じゃないか。 どうにもはやる気持ちを抑えつけて、あえて歩く速度を落として歩を進めた。 高い建物の角を曲がった。 百メートルほど行くと、あの頃住んでいた思い出のアパートが建って・・・ なかった。
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