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帰り際に、菱田大佐は、吉成らに対して、「軍からこのような随分と難しい新鋭艦を任されて、えらいことになったが、艦政本部と航空本部の助言と指導を得て、艦上機が無事発着艦できるように準備を整えておくから、その時は大変だろうがよろしく頼みます」
との、この新型の航空母艦の次期艦長らしからぬ、随分謙虚な淡々とした口調でそう言った。そう言われて、吉成たちは悪い気がするわけがなかったから、ここは是非とも菱田大佐の為にひと肌脱がねばと思った。
そこで、
「分りました、航空機の操縦(あつかい)の方は我々にお任せ下さい。つきましてはひとつお願いがあります。航空本部から、この艦の航空長心得として、事前に発着艦に備えた準備をするように言われております。そこで、無理を言いますが、海軍軍令部や艦政本部の許可が下りなくても、我々に発着艦の飛行訓練をやらせて貰いたいのですが…。そのように取り計らっては頂けないでしょうか。勿論、飛行甲板から飛び上がって、再び降りる真似をするだけの、模擬訓練ですので、実際に発着艦はしませんので、その点はご安心ください」
吉成がそう言うと、
「分かりました そのように取り計らいましょう」
と、菱田大佐は意外にも二つ返事でそう答えた。
その後実際に、既述のように、周りの反対を無視して訓練を存分にやらせてくれたから、後から考えると、吉成らにとって、これが随分と役に立ったわけで、心底大いに助かったのだという。
「発着艦の段取りに関しては、色々と難しいことがあるでしょうが、我々としてはこの艦(ふね)に大いに期待を寄せております」
と、彼のこれからの苦労を思い遣りながらも、我れながらついお座なりなことしか言えず終いだったが、そう言い残して、吉成たちは艦を辞した。
その後、何故か中々発着艦の実地訓練の許可が下りない中、それでも、吉成らは発着艦に備えた、接触すれすれの訓練を度々行った。
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