姉 祥子の物語 《今宵、ただ一夜》

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そうとは気づかぬ奏一様の、 お手に収まる杯を引いて 一口いただきます。 するとようやくこちらを向いた、 その目が大きく見開かれる。 「やめなさい! 六条家の子女ともあろうものが 何というふるまいか」 パッと顔を反らすと、 散らばった衣で私の肩を 覆っておしまいになる。 ですが私は―― そのまま、隠しもせずに 奏一さまの座位に乗り、 できるだけの作り声で ささやきました。 「だって、 父が公爵家との縁談を 決めてしまったのです。 私がお慕いしているのは奏一様 ただおひとりだというのに……」
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