桜散る

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ーーー 西条は、袴で部活をやっていたため、他の1年生よりも着替えるのに時間がかかっていた。(他の人たちはジャージ)着替え終わった時には既に1年生達の姿はなく、ゆっくり着替えながら談笑する先輩たちしかいなかった。 「お疲れ様でした」 そう告げて部室を出ると、目の前には段差に腰掛けている横須賀がいた。 「やぁ、待ってたよ。」 「気持ちわる。何で待ってんだよ」 「君と一緒に帰ろうと思って」 西条が思わず本音を呟いても、当の本人は、特にそのことには反応せずスルーである。 「帰ろう?」 立ち尽くしていた西条に何を思ったのかは分からないが、横須賀は促すように歩き始めた。 別に横須賀に合わせる必要は全くなかったが、それでも待っていてくれたことを考えると、一緒に帰らないと悪い気がしたので西条はついて行った。 「横須賀はー」 「へへっ、…あ、なに?」 「いや、なにってこっちが聞きたいよ。何ニヤニヤしてんの」 「初めて西条くんが俺のこと呼んでくれたなーって」 ダメだこいつやっぱり気持ち悪い。こんなやつに罪悪感も何もあるもんか。そうだ、待ってたっていってもそもそも頼んだ訳じゃないし、悪いと自分が思う必要はないのだ。 「お前、気持ち悪いわ」 「2回も言われると少し傷つくなぁ」 最初に言ったのは聞こえてたんかい。ついツッコミを入れそうになった。はぁ、とため息をつき、気になっていたことを聞いてみた。 「何でお前はそんなに俺に執着すんの?何で仲良くなろうとすんの」 横須賀は、すぐには答えずにうーんと考え込む仕草をし、その後頭で思いついた言葉をぽつりぽつりと呟き始めた。 「確かにね…。何でだと思う?…俺も、何で仲良くしたいと思ってるのか正直よく分からないんだよね。…でも、何となく、西条くんと仲良くなった方がいい気がした。でも仲良くなるのに理由は必要かな?」 あやふやな答えではあったが、西条はその答えに対して不満は持たなかった。 理由は無くてもいいかもな、と一言だけ返すと、いつの間にか部室から体育館の脇、校舎脇を通り昇降口まで来ていた。 「学校まで何で来たの?」 「自転車」 「そうか。俺は車だから。」 「じゃあここまでだね。……また明日!」 共に歩く帰り道は昇降口までで終わり、横須賀は駐輪場へと足先を向けた。西条は横須賀の後ろ姿を静かに見送った。
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