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「ここで見ててもらおうかな」
部長は横須賀と堀田を道場の真ん中辺りに誘導した。横須賀と堀田は言われるがままその場に座る。
青嵐高校の道場はとても狭く、座ったすぐ後ろには弓置きがあり、ほんの1、2メートル先には射位(弓を引く時の立ち位置)がある。一般の道場はとても広く弓置きから射位まではかなり空いていて、本座(弓を引く前に待機する位置)の幅もしっかり取れている。
一般の道場と比べると青嵐の道場は半分のスペースしかない。しかし横の幅は一般の道場と同じくらいあるので、射場の数は6つあり、一回の立ちで6人入ることができる。
現在射場の中には先輩が数人と、端の6的に西条が入って弓を引いていた。横須賀と堀田は同級生である西条に視線を向けた。
西条はまだ射場に入ったばかりのようで、両足先を的に向け、馬手(かけをつけた右手)で
持っていた4本の矢を床に置いた。
「弓引く時って矢は4本なの?」
「大体そうだね。大会の時とかも一立ち4本だよ」
ボソッと堀田に向かって聞くと教えてくれた。
床に置いた4本の矢のうち2本の矢を持ち、体正面に左手で持っている弓をもってきて、1本の矢を弦に打ち込んだ。
そのまま胴造り、弓構えと八節の動作をこなしていく。
ここまでの動作を見るだけでもこの一本は中る(あたる)のだろうと直感的に思わせるような安定感が西条にはあった。
たいして経験のない横須賀でも分かるこの圧倒感。他の先輩の行射の様子も見るが、西条ほどの安定感、絶対感は感じられない。一体何がそう思わせるのか、見逃すまいと集中して西条の一つ一つの動作を追っていく。
ゆっくりと打起こし。ある一点の所までくると、ぴったりと動きが止まった。そのまま馬手を軸に弓手で押し開いていく。ここもゆっくりと、繊細に。
終始西条の肩は肩の力が力みすぎず抜けすぎずのちょうどいい按配で、それでいて左右の力のバランスも均等だ。また、体の軸がぶれることなく、動くのは上半身の腕だけだ。
(そうか…肩だけを意識するんじゃなくて、力のバランスとかもっと別のところを考えた方がいいのかも。肩の線と、体の線…)
胴造りや弓構えの時に感じた、あの安定感はしっかりとした土台、足踏みがあるからこそなのだろう。体の軸がしっかりとしていれば、肩の線もうまく揃うかもしれない。
(練習するときに意識してみよう)
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