プロローグ

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中学生の頃1回だけ弓道の大会を見に行ったことがある。しかし、それは自ら望んで行った訳ではなく、彼女に見に来るよう言われたからだ。面倒くさいと思いながらも弓道場へ足を運んだのは、たぶんそんなに嫌ではなかったからなのだと思う。 4月のその日は春なのにとても寒く、厚めのカーキのコートを羽織り、俺はショルダーバッグを肩にかけて家を出た。コートのポケットにはカイロと、彼女からもらった写真を突っ込んだ。 電車やバスを乗り継いで着いた会場は、当然初めて来た場所で、どこに何があるかもよく分からなかった。だが、辺りを見渡すと数人の学生が袴姿でうろついているため少なくとも場所は合っているようだ。 ふと、袴姿の学生達がいる方向から弓を引く時に出る音なのか、謎の音とリズムのように叩く拍手の音が微かに耳に入ってきた。 あの奥にある建物で行っているのだろうか、あたかも関係者のようなふりをして音のする方へと向かった。 よく見れば確かに弓道場のような風貌の和風な建物だ。近づくにつれて音もだんだんとよく聞こえる。袴を着た学生も多くいる。 道場の周りには父兄の方もいるようで俺はその中に紛れ込み、大会の様子を見ることにした。
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