プロローグ

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三人一組のチームで行っていて、キリキリと弓を引きしぼる音、右手から矢が離れた時にキャンと弦の返る音、謎の音の原因はこれだった。 放たれた矢が的に収まり仲間が拍手をする、中った時に拍手をするのだろう。 そして矢を全部使い切った人から続々と退場して行く。的のある建物の端に掲示板のような手動で○×の表記ができるものが縦に4つで両側の掲示板(看的かんてき)を合わせて合計12立ちぶんある。先程の立ちで○×表記したものを、看的内にいる人が素早く戻した。 その後射者のすぐ後ろにある椅子で待機していた別の射者が立ちに入り、弓を引く。 これをセットに後は同じことの繰り返し。3回ほどこの行程を見て大会の仕組みを理解した。 しばらくの間見ていたが、正直、見ているだけでは何が面白いのか分からなかった。早くも飽きがきてしまい、何となくポケットに突っ込んであった写真を眺める。 そこに映っているのは笑顔でこちらに向かってピースをする彼女と後ろに弓道部員が数人。状況的には改まってではなく、今のような少しざわついたところで撮ったのだろう。そのためかカメラ目線ではない人もいる。 俺に見に来るよう言った当の彼女はなんとこの大会には来ていない。それもそうだ、さっきからすれ違う学生は男子ばかり。中には女子の姿もちらほらあるが、少なくとも彼女はいない。大方男子の大会ということなのだろう。 じゃあなぜ俺は目的もないのにここに来たのかというと、ここが目的地ではなくただの通り道だからだ。ついでとばかりに寄っただけだ。 写真をポケットにしまい、そろそろ行こうかと人混みをうまく避けながら弓道場を後にしようとすると、いきなり周囲の雰囲気が変わり、人々の視線が一つの方へと注がれた。隣でずっと会話ばかりしていた弓道部員も思わず話すのをやめ、射場の方を見ている。 (何だ……?) 妙な感じに思わず足を止めた。視線の先いたのは一人の選手だった。 一人の選手が会場にいる観客の視線を独占していた。
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