あの終りのない夏の日に

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丘のてっぺんまで上り切ると眼下に小さな港のある景色が広がる。 私がそこにしゃがみ込んで出入りする船を見ていると遅れて里夏も隣にしゃがみ込む。 私も里夏も各々の母親が生まれ育った町を見下ろす事が出来るこの場所が大好きだった。 ここは二人にとって約束の場所であり、無論その事は二人だけの秘密である。 時折リ、吹き上げる海風がその時だけ暑さを忘れさせてくれる。 「お兄ちゃん、トンボさん可哀想だよ」 唐突に横から里夏の声が聞こえた。 私が隣に目を遣ると、里夏の小さな2つの膝小僧の上に乗せてある虫かごのプラスチック製の蓋が開いている。 あっまずい、と思ったと同時に銀ヤンマがかごの中から姿を現した。 それは慌てる様子も見せず大きな羽が全てかごの外に出た後、前触れもなく飛び立って行った。 「ちゃんと見てなきゃ駄目じゃないか」 私は自然児の大らかさを忘れ、思わず里夏を叱責する様に言った。 里夏は俯いたまま黙っている。 「リコがしっかり捕まえていないから、トンボさん何処かへ行っちゃったよ」私は慌てて優しい口調で言い直す しかし時既に遅く、俯いていた里夏の目から一粒二粒と涙が落ちた。 「リコ」私は里夏の肩に手を回して顔を覗き込もうとする… その時、体が揺れていきなり目が覚めた。 しかし私は夢から覚めても尚、夢を見ている様な気分だった。 車輪の軋る様な音、そして車内放送、見慣れない4人掛けの電車のシート、私はそこに座ったまま眠っていた様だ。 左腕の時計に目を遣るとターミナル駅からこのローカル線に乗り換えて、まだ 20分も経っていない。 私の目指す終着駅まで後1時間近くかかる。 窓の外を見ると途中の停車駅に止まりつつあるところだった。      
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