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物心ついた頃には、既に夏休みを母の実家で過ごす事は習慣になっていた。
私が小学校に上がる前に亡くなったと言う祖父の記憶は残念な事に殆んど残っていないけれど、祖母を始め伯父夫婦そして従姉と従兄、みんな快く私を受け容れてくれた。
「一人で大丈夫なの?」母は実家に私を残して父の待つ都内の家へ戻る際には決まってその様に訊いて来た
私は親元を離れる寂しさなど感じた事がなかったので、その質問の意味すら分からないまま「大丈夫、大丈夫」と毎回おどけた様に答える。
すると何故か回りのみんなが楽しそうに笑うので、それがまた嬉しかった。
それに夏の陽射しの下での海水浴、夏草の中のバッタ採り、澄んだ夜空にくっきりと映える花火、夏祭り、縁側に腰掛けて食べるスイカ等々、楽しみはいくらでもある。
寂しさを感じてる暇なんてなかった。
そして、そんな中でも従兄と一緒に過ごす時間は格別だった。
この従兄とは言う迄もなく母の兄、つまり伯父の息子である。
彼は10才近く歳が離れているにも拘わらず、海に山にと連日の様に私を連れ出しては自然の中での遊び方の手解きをしてくれた。
兄弟の居ない私にとっては大好きな親戚のお兄ちゃんである。
私は親元を離れる事よりも夏休みの終わりに、この従兄と別れる事の方がよっぽど悲しかったと記憶している。
そんな従兄も成長と共に野山を走る事もなくなり、私が小学校の3年の夏休みには大学の夏期休暇を利用してバイトだの旅行だのと遠い存在になって行った。
そんな夏に…
入れ換わる様にやって来たのが里夏だった
私は再び走り出した電車の窓から外の景色をぼんやりと眺めている。
その久しぶりに見る田園風景にも懐かしいものを感じて止まないのだが、それよりもやはり先ほどの夢が引き金になったのだろう、私の頭の中では少年時代の思い出が次々と甦って来ていた。
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