あの終りのない夏の日に

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私が中学に上がると状況は急変した。 環境の大きな変化に思春期に差し掛かった成長著しい年齢と言う事も加味されて、誰もが今を吸収して先を見ようとする時期である。 過去を振り返る事などしない。 気が付けば小学校での日々も既に遠い昔に思えるものだ。 それは私も例外ではなく、4月に中学校に入って夏休みまでの3ヶ月の間に、1年前の夏の事など忘れてしまっていた。 結局、中学時代の3度あった夏休みに母の実家を訪れる事はなかった。 そして3年生の秋に祖母が亡くなった。 優しかった祖母を思うと、この3年間全く顔を見せなかった事が悔やまれた。 葬儀には両親と共に出席した。 3年ぶりに見る里夏は驚くほど成長して、大人びた女の子になっていた。 中学1年とは思えない落ち着いた物腰は大人の中で揉まれて来た事を意味している様だった。 その時も伯母、従姉の下で葬儀の準備に甲斐甲斐しく動き回っていた。 一見したところ無表情なその顔も近寄れば目元に泣きはらした跡があり、まだ癒えぬ悲しみを湛えている。 伯父と従兄が弔問客の応対にあたり、伯母に従姉そして里夏の3人に私の母を加えた女連中は葬儀の準備で悲しむ暇もないほど動き続けている。 しかし、そこに里夏の母親の姿はなかった。 結局、里夏と話すこともなく通夜は私一人眠ってしまい、翌日の葬儀も正座に苦しんでいる間に終わってしまった。 今回は以前とは逆で、母が一人残り私は学校のため父と共に先に帰る事になる。 電車の都合でまだ弔問客の残る中、挨拶もそこそこに父と立ち去ろうとしていた。 その際になって私がふと玄関から大部屋の方を振り返ると、後片付けで開けっ放しになっている襖のところで祭壇の回りを掃除している里夏の横顔が見えた。 その様子が変に思えたのは、気丈に堪え続けていた涙が嗚咽と共に溢れ落ちているためだった。 私が思わず身を乗り出すと里夏も直ぐに気付いた。 沈黙の数秒間が流れる。 しかし何一つ言葉にならなかった。 黙って立っている私を里夏は涙を湛えた目で暫く見つめた後、小さく手を振って来た。 私には頷いて手を振り返すと黙って外に出て行く事しか出来なかった。       会わなければ悔いが残ると思い今から2週間程前に、意を決して電話をかけてみたのだが里夏は不在だった。   しかし里夏の強い意向で私の席は用意してあるからと電話に出た伯母から聞かされた。  
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