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それから5年後の夏の終わりに今度は母がこの世を去った。
あれほど元気だった母が病に伏して僅か半年、儚いものだった。
私が大学2年の夏期休暇中の事である。
生きていると言うことは不安定であり常に安定へと向かっている様に思えて来る。
そう考えると不思議と母の死を祖母の時ほど、受け容れ難いものとは思わない。
いずれ人は去ってゆくものなのだ。
しかし母の死が私の日常に潜んでいて、時として波の様に打ち寄せて来るのも事実である。
別離に堪えると言う事はそう簡単なものではないのだろう。
私はそんな時いつも決まって祖母の葬儀の後の里夏が流したあの涙を思い出すのだった。
母の葬儀には伯父と伯母は駈け付けてくれたものの、従姉は嫁ぎ先の都合で従兄は仕事の関係でどうしても出席出来ないと言って来た。
しかし、その伯父夫婦と共に里夏の姿があった。
葬儀場の入り口付近で彼女の顔が見えた瞬間、私は込み上げてくる激情で居た堪れなくなった。
すぐに私は席に座り直すと隣の喪主席の父に伯父夫婦が来た事を伝え、そのまま葬儀が終わるまで後ろを振り返る事はしなかった。
伯父夫婦がとんぼ返りで葬儀場を後にしたと父から聞いたのは 30分以上経ってから親族控え室での事だった。
私は何も考えず葬儀場から飛び出していた。
歩道を行き交う人たちが怪訝な視線を送って来る。
私はこんな所にいる筈がないと諦めて建物の中へと戻ろうとした。
その時、遠くで「お兄ちゃん」と呼ぶ声が聞こえた、そんな気がした。
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