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最初はほろ苦かったショコラが溶かされていくうちに甘いミルクの風味に変わって舌の上に拡がっていった。
――それはとても、にがくて。あまくて……。
まるでカカオに浮かされるように身体の熱が、じわり、と上がった。
「……ぅ、はぁ……、ふっ、……んん」
ちゅくちゅくと舌を吸われて唇を食まれて、ショコラの味がしなくなってもタカさんは僕の唇を離すことはなかった。
「は……ぁん、……タカ、さ、ん……」
キスの合間にタカさんの名前を囁く。吐息の中にもカカオの香りが無くなった頃に漸くタカさんは唇を開放してくれた。
「……旨いな。とても甘いよ、リュウ」
お互いの唾液で濡れた僕の下唇に指を這わせてタカさんが笑い掛ける。
――ああ、その笑顔の方がどんな高級ショコラよりも甘くて刺激的だ……。
その魅惑的な笑顔を、ふわり、と手を伸ばして抱き締めた。そしてタカさんの髪から香るタカさんの匂いをすうっ、と吸い込む。
あれ? 何だかおかしいな。苦くて甘いショコラの香りがする……。
何故かタカさんからカカオの香りが匂い立つ。それはどんどん僕の内へと入り込んで、小さく燻り始めて……。
抱きついたタカさんに体重を掛けた。タカさんは僕の髪に優しく指を差し込んで、ゆっくりとその場に横たわった。
「どうしたんだ? リュウ」
タカさんが笑いながら問いかけてくる。その低く響く声もショコラのように甘い。
「……何だか変だよ。タカさん……」
自分の声がふわふわと覚束無い。
「あのショコラ、何か入っていたんじゃない? 物凄く……、タカさんが欲しくて仕方がないんだ……」
タカさんが小さく笑ったのが重ねた胸の振動で分かった。優しく僕の髪を梳くタカさんが、
「俺もそうだよ、リュウ。お前の部屋に行くまで我慢出来ない。チョコレートよりも……。甘いお前を今すぐ食いたいよ」
ああ。僕もショコラと同じように熱く蕩けてしまいそうだ――。
横たわるタカさんの顔を見下ろして、その甘い唇にキスを落とした。
「ねえ、タカさん。あの三つのバレンタインチョコの事だけれど」
あれからその場で繋がり合って、その後で抱きかかえられて自分の寝室に移って……。
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